研究課題/領域番号 |
26248043
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平尾 一郎 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, チームリーダー (50173216)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 人工塩基対 / 遺伝情報拡張技術 / 合成生物学 / ゼノバイオロジー |
研究実績の概要 |
申請者らは、遺伝情報を拡張した次世代遺伝子操作技術の創出を目指して、人工的に作り出した第三の塩基対(人工塩基対)を組み込んだDNAを遺伝子に持つ生物システムの構築を進めている。これまでに申請者らが開発した複製や転写で機能する人工塩基対(Ds-Pxなど)を用いて本課題を遂行し、平成26年度は以下の研究を行った。 予備実験としてDs -Px塩基対の複製におけるその性質の詳細を調べた。Ds-Px塩基対はPCRで機能する第三の塩基対として世界的に注目を集めているが、一部では特定の塩基配列中でしか機能しないという誤解もされている(http://www.sciencemag.org/content/336/6079/292.3.full)。そこで、精密な実験系を構築して、この配列依存性を調べた。そして、Ds-Px塩基対の配列依存性は低く、どのような天然型塩基の配列中にも第三の塩基対として導入できる精度の高い人工塩基対であることが分かった。 Ds-Px塩基対を組み込んだDNAを導入した細胞を増幅させるためには、DsとPxの材料を外部から与える必要がある。通常は、人工塩基ヌクレオシドを供給して、細胞内で三リン酸体にさせる方法を取るが、検討を行ったところリン酸化酵素による人工塩基ヌクレオシドのリン酸化効率が悪いことが分かった。そこで、申請者らは、フランスの研究チームとの共同研究により、全く別の方法で、人工塩基ヌクレオシドの三リン酸体を作る出す方法も検討し、すでに結果が得られている。 また、Romesbergらと同様の方法を申請者らのDs-Px塩基対でも試すための大腸菌の系を現在立ち上げているところである。さらに、Ds-Px塩基対とは異なる概念の人工塩基対の開発も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RomesbergらのNature論文以降で状況が変わり、また、途中採択であったため、その状況に合わせて実施内容を変更したため、目に見える達成度としては現時点では現れていない。 申請者らは、本課題を数年前より実施しておりその可能性が高いことが分かっていたが、研究室に余力が無く、当時最優先に進めていた核酸医薬品への応用に注力した(Nature Biotechnol., 2013, 31, 453.)結果、米国のRomesbergらによって彼らの人工塩基対を大腸菌のプラスミド中に導入した論文がNature誌に先に掲載されることになった。その後で平成26年度の途中より本課題が採択され、遅きに逸した感があるが、Romesbergらの手法を誰もが使えるバイオ技術に高めるためにはさらなる改良の余地があることも分かり、課題を進めるに当たり、基盤をさらに強固にして研究を積み重ねる方針に切り替えた。ただし、本課題のように化学合成した人工物質を用いた生物学実験から成り立つ合成生物学分野の研究に経験豊富な研究者が少なく、平成26年度は人材の育成に力を入れることにした。その結果、細胞実験に進めるに当たりその準備は整ってきたが、目に見える形の成果にはまだ至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
RomesbergらのNature論文の追試を申請者らの人工塩基対を用いて実施することと、培地中より細胞内に取り込ませる人工塩基材料を、Romesbergらの行った扱いにくいヌクレオシド三リン酸体から取り扱いやすいヌクレオシドなどに変えて、大腸菌や酵母の系で実験を進める予定である。 また、本人工塩基対技術は遺伝情報の拡張技術として次世代の遺伝子操作技術になる。その点で細胞への応用は非常に重要となり、米国ではRomesbergらのNature論文以降、この分野への研究にかなりの力を注ぐようになった。これまでの人工塩基対の創出研究は、アイデアが重要であったため小さな研究グループでも世界的にリードを保つことができたが、人工塩基対が開発できたことにより、研究の規模を大きくすれば他分野への応用が一気に進む状況になってきた。細胞への応用もその一つであり、このままでは米国力に太刀打ちできなくなるであろう。この状況に危機感を感じたのは欧州の研究者達で、昨年は新たにXenobiologyという分野を立ち上げ、私自身もそこに呼ばれて参加するに至った(http://xb1genoa.com/)。しかし、世界で最初に複製で機能する人工塩基対を開発した申請者らとしては、やはり、日本のオリジナルとして本研究を進めたい。幸い国内には細胞システムを自在に扱える突出した合成生物学研究者がいるので、申請者らの人工塩基対を提供して種々の細胞システムに応用してもらう時期と考えている。そこで、今後は、本基盤研究から一歩進んで国内の研究グループが集まり、人工塩基対の細胞研究を加速するプロジェクトを立ち上げる準備も進めている。
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