研究課題
1.1H固体NMR分子間構造解析法を用いて家蚕絹のβシート構造を決定することができ、論文として発表した。これまで半世紀もの間、生化学の教科書に必ず引用されてきたMarsh,Paulingらの提案した家蚕絹の分子間構造モデルが間違っていることを指摘し、新たな構造を提案する事が出来た。2.含水状態の重水素二次元ダイナミクス解析法を形状の異なる家蚕絹試料について適用、その結果をもとに、不連続な集団として出現する重水素ピークの帰属を行うことができた。また、本スペクトルが絹と相互作用した水のダイナミクスの状態の違いを極めて鋭敏に反映する事を示した。3.含水状態の家蚕絹試料について、結晶部を反映するセリン残基、非晶部を反映するチロシン残基の固体13CNMRスペクトル挙動を詳細に検討し、絹の含水状態は、結晶、非晶と言う領域の違いよりも、個別のアミノ酸残基の親水性や疎水性の違いに大きく左右されることを示し、論文として発表した。4.絹人工血管の試作・物性評価に関しては、編みと組みの各繊維会社による絹人工血管基盤作製と当研究室の周軸強度、圧縮強度、吻合保持強度、透水率の測定結果を元に、基盤の改良を加えた。さらに、絹コーテングを行った後、マウス、ラット、イヌを用いた移植実験を行い、基盤の改良にフィードバックを行った。特に、マウスの血管直径は、1mm以下と細いため、編みや組みによる基盤作製以外に、エレクトロスピニング(ES)技術を用いた絹人工血管作製が有力であり、その技術を用いた絹人工血管の作製と改良を行った。また、マウス移植実験は、極めて高度な移植技術が要求されるため、約200匹のマウスを用いた移植実験(編み基盤が、32頭、組み基盤が89頭、ES基盤が69頭)を繰り返し、染色評価まで行うことのできる移植試料が得られるようになった。
1: 当初の計画以上に進展している
現在までの業績は、論文22報(すべて査読付きで、うち18報が外国国際雑誌)、関連の学会での発表は、60件、図書は7件と、多くの成果を上げる事が出来た。日本語論文のうちの一報は、繊維学会誌に掲載された論文であるが、繊維学会から、昨年度の特に優れた内容の論文である との受賞理由で繊維学会論文賞を受賞した。また、新たに開発した1H固体NMR分子間構造解析法を駆使して、Marshらが提案した家蚕絹繊維の分子間構造(従来、約半世紀にわたって生化学の教科書に必ずと言ってよいほど引用されてきた)は間違っている事を明らかにした点は特筆に値する。今後は、我々が提案した新しい構造を基礎に、絹の再生医療材料の応用に向けた研究が進むであろう。これらの一連の業績も加味して、昨年度、繊維学会功績賞、高分子科学功績賞、NMR学会特別講演者(功績賞に相当)を受賞することができた。一方、このようなNMRを用いた基礎研究と並行して、従来のイヌならびにラットを用いた移植実験に、小口径絹人工血管を評価するためのマウスを用いた移植実験を加えることができるようになった。今後、遺伝子改変マウス等を用いて、絹人工血管の血栓形成、再内皮化、炎症反応、吸収、リモデリング等に関与する因子を明らかにし、長期開存のための指針が得られると期待される。
小口径絹人工血管の開発にむけて、小口径絹人工血管基盤に、多孔性で生分解性を高めた絹コーティングを行い、動物移植実験による評価を行う。小口径絹人工血管基盤に関しては、引き続き、繊維系の会社と山下先生のグループに改良を加えて作製いただく。農工大では、絹にグリセリン等の孔源を加えた後、除去することによって多孔性で生分解性を高めた絹コーティングを行う。その際、含水状態の水の重水素二次元NMRダイナミクス解析法に加えて、不均一な絹コーティング部分の構造とダイナミクスについて、含水状態で固い部分や柔らかい部分を選択的に解析できる新たな固体NMR解析法を組み合わせて解明を進める。一方、小口径絹人工血管の動物移植実験は、本学獣医学科の田中先生のグループにラットとイヌを用いて動物移植実験評価を、徳島大学 循環器内科の佐田先生のグループには、マウスでの動物移植実験評価を継続して行っていただく。NMR測定を加味した絹人工血管の試作と動物実験評価を繰り返して、本開発を進める。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 5件、 査読あり 22件、 謝辞記載あり 16件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (60件) (うち国際学会 10件、 招待講演 13件) 図書 (7件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
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