研究課題/領域番号 |
26248050
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
朝倉 哲郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (30139208)
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研究分担者 |
山下 義裕 大阪成蹊短期大学, 生活デザイン学科, 准教授 (00275166)
田中 綾 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70334480)
佐田 政隆 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (80345214)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 再生医療 / NMR / 絹人工血管 |
研究実績の概要 |
新たに開発してきた13C固体NMR構造解析法(INEPT法、CP/MAS法、DD/MAS法の組み合わせ)を、家蚕絹繊維の含水状態での不均一構造やダイナミクス解析に適用し、論文として3報発表した。同時に、重水素2次元NMRダイナミクス解析法を、絹繊維存在下での含水状態での水のダイナミクス解析に用い、自由水、繊維表面の吸着水、表面近傍で絹繊維内部に存在する2種類の水を、各々、明確に分離することができた。特に、後者の3種類の水は、従来の研究手法では単に吸着水として一括して認識され、区別することができなかった水であり、新たに絹と相互作用した高い運動性を有する水を区別できたことを意味する。さらに、この手法を、家蚕繭ならびに家蚕絹セリシン繊維、ならびに各種多孔質絹スポンジに適用、絹と水との相互作用の違いを明らかにした。現在、バイオ素材としての評価を、素材と相互作用する水の挙動から行うことが盛んに報告されているが、新たな観点から、分子レベルでの詳細な解析手法を開発したと言える。実際、典型的なバイオ素材であるN-イソピルアクリルアミドのゾルーゲル転移に伴う水の挙動変化にも本NMR解析手法を適用、論文として発表し、高く評価された。合わせて、絹を多孔質にする際に、使用するグリセリンについて、絹との詳細な相互作用の様子について、固体NMRを用いて明らかにすることができた。一方、小口径絹人工血管の開発に関しては、新たに多孔質絹スポンジでコーテングを行った絹人工血管の移植結果を関連学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの業績は、論文6報であり、本研究分野で有名な外国の国際雑誌に発表することができた。また、関連の学会での発表は、国内外で、18件、と多くの成果を上げることができた。特に、13C固体NMR構造解析法(INEPT法、CP/MAS法、DD/MAS法の組み合わせ)と、重水素2次元NMRダイナミクス解析法の組み合わせは、絹に限らず、再生医療材料のキャラクタリゼーションに極めて有力であることを示すことができた。これまで、材料自身と、それと相互作用する水の両面から分子レベルで構造やダイナミクスを解析することはあまり行われていない。特に、再生医療材料が生体中では、一般に含水状態で用いられることを考えると、その開発を行うにあたって、本手法を併用することは極めて有力であると言える。一方、小口径絹人工血管の開発に関しては、13C固体NMR構造解析法から有力であると思われる多孔質絹スポンジで新たに絹人工血管基盤をコーテングし、ラットで移植評価実験を行った結果、従来の絹人工血管に比較して優れていることを示すことができた。昨年に引き続き、TV (BS Japan 未来EYES 30分間)ならびに文化放送(大竹まことのゴールデンヒストリー)に出演し、絹人工血管の開発を中心とする当研究室の研究内容を広く知っていただくことができた。放映後、多くの反響があった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、13C固体NMRの構造解析法と重水素2次元NMRダイナミクス解析法を、含水状態の多くの絹素材に適用していく。すなわち、対象は、家蚕絹以外に、各種の野蚕(エリ蚕、柞蚕、天蚕、アナフェ、クリキュラ、ムガ蚕)等の絹である。これらは、現在、新たなバイオ素材として非常に注目されているが、いまだ、開発途上であり、本解析手法を用いた分子レベルでの新たな解析結果を国際雑誌に報告することにより、開発研究が進むと期待される。さらに、注目するのが、クモ糸の絹である。家蚕絹と比較して、高強度、高タフネスを有し、世界中で注目される新たな素材であるが、水にぬれると50%以上縮んでしまう超収縮の挙動を示す。その機構の解明は、現在、盛んにおこなわれているが、いまだ明らかになっていない。その超収縮の機構解明を本手法で行うとともに、その知見を活かして、大腸菌で生産されるリコンビナントクモ糸の超収縮を克服し、新たなバイオ素材の開発を目指す。共同開発をすでに始めている。一方、小口径絹人工血管の開発に関しては、マウスでの移植評価実験の成果を得、論文として公表する。絹人工血管の優位性を遺伝子レベルで解明するとともに、昨年度までのイヌやラットでの移植評価結果と合わせて、大きさの異なる小口径絹人工血管を開発する。
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