研究課題/領域番号 |
26248059
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
辰巳砂 昌弘 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50137238)
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研究分担者 |
林 晃敏 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10364027)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電極活物質 / 全固体電池 / アモルファス / 硫化物 |
研究実績の概要 |
本研究では、安全性と高エネルギー密度を両立した全固体リチウム二次電池の開発を目的として、高容量と長期サイクル寿命を有する新規なアモルファス電極活物質の作製と評価に取り組んでいる。これまでに硫黄高含有遷移金属硫化物のアモルファス化に着目し、高い電子伝導性と高容量を兼ね備えたTiS3およびMoS3を作製し、これら電極活物質を用いた全固体リチウム電池が室温で高容量を示すことを見出している。本年度はこれらアモルファス電極活物質の充放電反応メカニズムを明らかにすることを目的として、充放電前後の電極に対して、X線回折、ラマン分光、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、X線吸収微細構造(XANES)などの様々な手法を用いて構造解析を行った。正極層に固体電解質やナノカーボンを添加せず、アモルファスTiS3のみを用いた場合においても、全固体電池が室温で二次電池として作動することがわかった。よってTiS3は混合伝導体として機能していることが考えられる。充放電前後のTiS3電極層に対してS2p XPSスペクトルおよびS K-edgeスペクトルを取得し、主に硫黄の電子状態変化について検討した。電極層に硫化物固体電解質を含まないため、TiS3中の硫黄に関する情報が得られる。充放電前のS2p スペクトルから、TiS3中にはS22-とS2-がほぼ1:1の比で存在していることがわかった。10サイクルの充放電後においても、充放電前とほぼ同様のスペクトルが観測されており、可逆な硫黄の電子状態変化を生じることがわかった。一方、アモルファスMoS3に対してS2p XPS測定を行った結果、初期放電時に硫黄の電子状態変化が生じ、その後の充放電においては初期放電後の硫黄に類似した電子状態を保持することがわかった。以上の結果から、遷移金属硫化物中の硫黄の電子状態変化の可逆性と全固体電池のサイクル特性に相関のあることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、XPSやXANESなどの手法を用いて、アモルファス遷移金属硫化物活物質中の硫黄の電子状態変化を明らかにすることにより、全固体電池における電極活物質の充放電反応メカニズムを明らかにしつつある。特にアモルファスMoS3においては、初期の低いクーロン効率と硫黄の電子状態の不可逆性が対応していることを明らかにした。より可逆性の高い高硫黄含有遷移金属硫化物を得るためには、充放電に伴う硫黄の可逆な電子状態変化を生じることが重要であることを見出した。これまでの検討において、大気安定性に課題のある硫化物系材料を大気暴露せずにXPSおよびXANES測定を行うための手法をすでに確立している。よって、硫黄の電子状態解析を通して、遷移金属の選択や活物質の組成、作製手法を最適化することによって、より優れた電極特性を示す高硫黄含有遷移金属硫化物の開発が期待できる状況になっている。よって本研究は順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
様々な遷移金属と硫黄からなる複合体をボールミル処理によって作製し、その電極特性を調べた予備実験の結果、遷移金属としてFeを用いたアモルファス硫化物材料が容量とサイクル特性の点で優れた特性を示すことがわかった。そこで、今後は主にFeを含む高硫黄含有遷移金属硫化物と硫化物固体電解質、ナノカーボンを複合化して電極複合体の作製を行う。電極複合体の組成や構成成分、作製手法を最適化して、電極総重量あたりで高容量を示す材料を探索する。昨年までに取り組んできた、XPSやXANESを用いて硫黄の電子状態について調べるとともに、様々な構造解析手法を用いて多角的に電極反応機構について調べる。さらに電極複合体中へリチウム源を含ませることによって、充電方向(Liイオンの引き抜き方向)から作動させることが可能な、新規なリチウム含有高容量電極材料についても取り組む予定である。
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