高感度紫外光電子分光およびシンクロトロン放射光施設を利用した各種光電子分光実験等により有機半導体界面の電子状態研究を進め、9件の論文成果を発表した(他投稿中あり)。複雑な大型分子群の集合体において、高度に構造規定した単分子層や結晶膜を作製し、高精度角度分解光電子分光実験によって新たに電子格子相互作用についての展開が開かれた。今後は本課題で得られた独創的な成果を元にして、シンクロトロン放射光を利用した先端光電子分光実験を推進し、弱い電子間相互作用と強い振電相互作用による準粒子描像としての分子軌道分布変調について未踏の研究域に入った。他者の追従を許すことなく更に加速度的に研究を進めることが必要であろう。一方で、測定槽の低温高精度マニピュレータが故障し実験進捗に影響した。継続的な研究推進のためにも次年度以降、早急に改修が必要である。本年度成果の一例を以下に記す。 <有機半導体単結晶試料における電子格子相互作用の初観測> 有機半導体単結晶の電子構造測定は、その低い電気伝導度から実測例は極めて限定される。ルブレン分子について単結晶のエネルギー分散関係と有効質量の異方性評価に加え、低エネルギー放射光励起角度分解光電子分光法により、初めて有機単結晶における電子格子相互作用の実測に成功した[Nature Communications 2017]。 <有機半導体p/n界面における電子準位接合の実験及び理論検証> 大型分子のファンデルワールス力を基本とした弱い相互作用による電子状態の変化は、極めて微細であるため実験検証が困難である。しかしその大きさと異方性の高さを本質とする分極効果について検討し、正・逆光電子分光法と大規模第一原理計算を組み合わせることにより、ドーパント濃度に依存した準位接合現象の定量的な説明に成功した[Nature Materials 2018]。
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