研究課題/領域番号 |
26249010
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
垣内 弘章 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10233660)
|
研究分担者 |
押鐘 寧 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40263206)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 薄膜作製技術 / 大気圧プラズマ / 薄膜デバイス |
研究実績の概要 |
(1) 低温でのデバイス品質アモルファスSi(a-Si)および微結晶Si(mc-Si)の高能率成膜条件およびTFT特性の検討 前年度までの研究により,a-Siに関しては,ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムの耐熱温度以下の120℃において,十分高品質な成膜を実現した(TFTの作製・評価により,一般的なa-Si TFTとそん色のない電界効果移動度を確認).しかし,mc-Siに関しては,TFTの作製・評価の結果,a-Si以下の移動度しか得られていなかった.これは,a-Siとmc-Siとでは,高品質成膜に適したプラズマ環境が異なることが一因である.そこで当該年度においては,成膜時におけるH2/SiH4比と投入電力を幅広く変化させ,mc-Si成膜に適したプラズマ条件を集中的に検討した.その結果,最高で電界効果移動度1.5 cm2/Vsを示すmc-Si TFTを実証できた(論文投稿中).この移動度の値はa-Si TFTの移動度を上回るものであり,今後の高性能なmc-Si TFT実証への見通しが得られた. (2) 緻密で絶縁性に優れたSiOxゲート絶縁膜の低温・高能率・高品質成膜の実証 ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料ガスとしたSiOx薄膜の成膜に関しては,Siウエハを基板とした検討に加え,当該年度はPENフィルム上への高能率・高品質成膜条件の検討を行った.その結果,TFTを動作させる上で十分な絶縁破壊強度を有するSiOx薄膜をPENフィルム上に形成できる条件を明らかにすることができた. (3) 大気圧プラズマちゅうでの成膜過程の数値シミュレーション 現有の熱流体解析ソフトPHEONICS-CVDを活用し,大気圧プラズマ中におけるSiの成膜プロセスの数値シミュレーションを実施した.その結果,(1)に記載したmc-Si成膜の実験結果の考察に有用な情報を得ることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,大気圧プラズマによる成膜プロセスにおいて顕著に見られるプラズマ領域におけるガス流れ方向の膜質の不均質性を投入電力のパルス変調によって解消することを一つの大きな目的としている.具体的には,成膜に寄与する前駆体分子の形態を電力投入時間(バルス繰り返し周波数とデューティー比により決定)によって制御することにより,プラズマ領域全体に渡って同種の前駆体分子を成膜に寄与させ,膜質の均質化を図る.実際,前年度から継続して検討を進めてきた結果,当初の構想通り,投入電力のパルス変調がSiの膜質の均質化に大きな効果があることが確認され,さらにPENフィルムを基板として使用可能な120℃の低基板温度においても十分に良好な電界効果移動度を示すa-Si TFTの作製に成功した.また,当該年度は,mc-Siの高品質化について重点的に検討を行い,基板温度は220℃ではあるものの,投入電力のパルス変調を用いなくても,前年度までに比べてmc-Si TFTの特性を格段に向上させることにも成功した.今後は,投入電力のパルス変調を活用したa-Si成膜の成果を基に,mc-Si成膜温度の低温化に注力していく予定であり,期間内に120℃の低温における高性能なmc-Si TFTの実証を目指す.
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 低温でのデバイス品質アモルファスSi(a-Si)および微結晶Si(mc-Si)の高能率成膜条件およびTFT特性の検討 前年度までの研究において,投入電力のパルス変調が低温での高品質a-Si成膜に非常にポジティブな効果を持っていることが明らかとなり,研究を遂行してきたが,mc-Si薄膜に関しては,電気的特性についてのa-Siに対する本来の優位性を得るまでには至っていない.そこで本年度は,mc-Si成膜に適したプラズマ環境とはどのようなものなのかに注目し,まずは基板温度に拘らずに種々の成膜条件が膜構造やTFT特性に及ぼす影響を系統的に検討するとともに,大気圧プラズマ中の反応過程の数値シミュレーションにより得られた各種ラジカルの分布と関連させて詳細に考察を行う.a-Siの成膜も含め,最終的にPENフィルム上への高品質Si成膜の実証を目指す. (2) 緻密で絶縁性に優れたSiOxゲート絶縁膜の低温・高能率成膜の実証 これまで同様,高品質のSiOxゲート絶縁膜の成膜プロセスの検討を進めるが,特に,前年度に引き続きPENフィルム上への高品質成膜条件の確立に注力する.具体的には,PEN上に成膜するとSi基板上と比べて絶縁性等の電気特性がやや低下する原因を,系統的な実験・膜評価を通して明らかにする.最終的に,Si成膜と組み合わせ,トータル大気圧プラズマ成膜プロセスによって作製したTFTの性能を評価し,プラスチックフィルム上への高能率薄膜デバイス作製技術の確立を目指す. (3) 大気圧プラズマ中反応過程の数値シミュレーション 熱流体解析ソフト(PHOENICS-CVD)による成膜プラズマ中反応過程の数値シミュレーションを継続し,上記の実験的検討の結果と比較しながら成膜プロセスを詳細に理解する.
|