研究課題/領域番号 |
26249031
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
青柳 誠司 関西大学, システム理工学部, 教授 (30202493)
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研究分担者 |
新宮原 正三 関西大学, システム理工学部, 教授 (10231367)
長嶋 利夫 上智大学, 理工学部, 教授 (10338436)
鈴木 昌人 関西大学, システム理工学部, 准教授 (70467786)
高橋 智一 関西大学, システム理工学部, 助教 (20581648)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 生体模倣 / 射出成形 / 精密部品加工 / 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
(研究の目的)従来の針とは全く異なる,蚊を生体模倣した無痛針を開発することを目的とする.この針は,寸法が微細であること(断面積が現行の針の1/10以下),鋸歯状突起を有する複数針を交互に少しずつ進めることに起因し,侵襲性が極めて低い.具体的には,3D造形と電鋳技術を用いて鋳型を作製し,これに生体適合ポリマーを射出成形して針を作製する.これに新規に提案する毛管現象と吸水ポリマーを用いたポンプレス血液吸引機構を搭載する.H26年度~H29年度の4年間でこの無痛採血デバイスの完成を目指す. (実施項目と成果)初年度である平成26年度は,3D造形による微細針の基礎的な作製実験に注力した.また針の設計指針を得るため,有限要素法(FEM)による針の皮膚への穿刺シミュレーションも実施した.以下に具体的な実績を記す. 【3D造形による原型の作製】分解能0.2μmの超高精度3D光造形装置(Nanoscribe社)を用いて,複雑で微細な蚊の針を作製することに取り組んだ.具体的には穿刺に重要な役割を果たす上唇(中空の針)と,その両脇の先端にギザギザ状突起(歯丈5μm,ピッチ25μm)を有する小顎2本の合計3本が組み合わされた針(長さ2mm)の作製に成功した. 【FEMによる穿刺シミュレーション】蚊の口針の形状を忠実に3Dでモデル化し,皮膚へ針が刺入していく様子を,陽解法非線形FEMソフトウェア(LS-DYNA,JSOL社)を使用してシミュレーションした.本年度は中央の上唇を振動させながら穿刺した場合について,振動が無い場合に比べて10%程度穿刺抵抗力が低減することを確認できた.実際に作製した針を用いて穿刺実験を行い,同様の結果を得ることができた.このことにより,シミュレーションの妥当性が確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来のMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)の加工技術では平面方向の形状を深さ方向に転写する2.5次元の構造物の作製はできるが,真に3次元の構造物を作製することは難しかった.この問題を,分解能0.2 μmの超高精度3D光造形装置を用いて解決した.本装置はレーザビームを光硬化樹脂内の極小スポットに集光し,これを3次元で走査する.この後に現像すると3D構造物が得られる.結果として,世界ではじめて蚊の上唇(中央の中空針)と小顎2本(両脇の先端がギザギザ状の針)を正確に模倣した3本組みの針を作製することに成功した. 蚊だけでなく,アブラムシの口吻,セミの産卵管も複数針から構成され,そのうち外側の針には鋸歯状突起があることが解明されている.これは昆虫が進化の過程で獲得した最適な穿刺メカニズムであると思われるが,このことを数値シミュレーションにより明らかにした例は無い.これは,針が微細・複雑形状をしており,穿刺対象(皮膚)を部分的に破壊して押しのけながら進行するという非線形性が強い現象を扱わなければいけないからである.本年度は,口針の形状を3Dモデル化し,陽解法非線形FEMソフトウェアを用いてこの難しい課題に世界に先駆けて取り組み,蚊と同様に振動を加えながら穿刺することの効用を解明した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は以下のような項目に取り組む.【3D造形による原型の作製】前年度に引き続き3D光造形により成形加工の原型(針形状)を作製する.【電鋳による鋳型の作製】前記の原型にメッキを施すことで,金属製の鋳型(上型板,下型板)を作製する.研究室で試作を行うとともに,外注による高精度品の作製も行う.【ポリマーの射出成形による針の作製】微細構造に樹脂を流動させて充填させるには,下型板を加熱しておき,射出後速やかに型を水冷した後,離型を行うこと(ヒートアンドクール法)が有効である.この方法で成形作業を行い,蚊の口針を模倣した生分解性を有するポリ乳酸製のプラスチック微細針を完成させる. 【不透明皮膚下での血管観察手法の開発と蚊の吸血動作の確認】動物の皮膚は不透明であるため,蚊が毛細血管にどのようにアクセスし吸血しているかの観察は行われていない.高速度カメラと赤外照明を組み合わせてこれを観察する手法を開発する.観察結果を針の形状や穿刺方法にフィードバックする.【FEMによる3次元穿刺シミュレーション】前年度は中央の針のみの解析に留まったが,3本の針を協調動作させ,その効果を確認する. 【毛管現象を用いた血液吸引機構の開発】膨大な数の細孔を前記3D造形で作製し,これと針とを一体化させた血液吸引デバイスを開発する.血液は毛管現象により細孔に吸引される.血液の凝固を防ぐために抗凝固効果を有するコーティング剤を流路内面に塗布する予定である. 【動物実験による針の穿刺・吸血性能の評価】実験動物として皮膚が透けているヌードマウスを用い,開発した針の穿刺性能,血液吸引性能を実験的に評価する.実験は関西大学動物実験施設において,動物実験委員会の承認を得て行う.連携研究者の群馬大学・高澤医師と情報交換し,アドバイスをもらいながら行う.
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