研究課題/領域番号 |
26249036
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石山 敦士 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00130865)
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研究分担者 |
山川 宏 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00097263)
金 錫範 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (00287963)
植田 浩史 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (10367039)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2018-03-31
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キーワード | 加速器 / 超伝導材料 / 電気機器 / 量子ビーム / 癌 |
研究実績の概要 |
高温超伝導コイル技術を活用した小型・高効率・高性能の重粒子線がん治療用超伝導加速器「先進ハイブリッド・サイクロトロン(AHC)」の開発を目標に、その実現の鍵となる「高機械強度・高電流密度・高安定・高磁場・高精度磁場」という「5つの高:5-High」を可能とするREBCO超伝導テープ線材を巻線したコイル開発のための基盤技術の確立を目指してきた。本年度は、高磁場精度化については、不整磁場要因の1つである遮蔽電流磁場の低減法として、まず銅メッキ付多芯REBCO超伝導線材(遮蔽電流低減のために多芯化し、一方で熱的安定化のため銅メッキを施した線材)を対象に、本研究グループが開発した三次元非線形過渡電磁場解析プログラムを用いて遮蔽電流の時間変化を詳細に解析し、その低減効果を評価した。またover-shoot法等のコイル通電電流制御法による低減効果を数値計算と検証実験に基づき評価した。次に高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術として、電気絶縁を持たない線材で巻線する「無絶縁コイル(NIコイル)技術」の適用に向けた検討を行った。NIコイルは、銅安定化層を巻線内で共有できるため、高熱的安定性を確保しつつ電流密度を高められる。また線材の超伝導特性のばらつきがあっても電流が隣接する線材に迂回することができるので、線材の歩留まりの制約が緩和され、使用線材コストの大幅削減が期待できる。本年度は、開発した数値解析プログラムを用いて層間接触電気抵抗の適正値の決定法を提案した。また、巻線内に接続部や一部劣化を想定したときの電磁的・熱的過渡特性について解析・評価を行い、NIコイルが高い熱的安定性を有していることを示した。高機械強度化については、先行研究で提案したYOROIコイル構造に改良を加えた「Super-YOROI構造」を提案し、数値構造解析に基づきその有効性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下のように、予定を上回る成果が得られた。従って次年度(最終年度)には、当初の計画をさらに一歩進める研究が可能となったと考える。 ・高電流密度化と高熱的安定化の両立:本研究課題において最も実現が難しいと考えていた高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術として、「無絶縁コイル巻線方式」の適用の可能性を検討してきた。すなわち、数値解析と検証実験に基づき、局所的常伝導転移時の電磁的・熱的過渡特性の把握、適切な層間接触電気抵抗の決定法の確立、クエンチ検出と保護法の確立などについて当初の計画通り研究が進展している。さらにこれらに加え、当初の計画にはなかったAHC実用化時に不可欠となる複数のNIコイルから成るマルチコイルシステムの挙動(特に常電導転移時の電磁的・機械的相互作用)の把握に取り組むための新たな数値解析プログラムの開発に着手することができた。 ・高機械強度化:昨年度までに、重粒子線がん治療用高温超伝導サイクロトロンを想定し、先行研究で提案したYOROIコイル構造の適用可能性を検討し、補強構造材料の影響把握、補強構造材料の寸法最適化等を行ってきた。本年度は新たにYOROIコイル構造に改良を加えた「Super-YOROI構造」を提案し、数値構造解析による応力分担機構の評価に基づき有効性を検証した。 ・高磁場精度化:最も影響評価の難しい不整磁場発生要因である遮蔽電流磁場を対象に、昨年度は、目標とする重粒子線がん治療用高温超伝導サイクロトロン用超伝導コイルシステム全体における遮蔽電流磁場の影響評価を実施し、その全体像を明らかにすることができた。本年度は、遮蔽電流磁場を低減する具体的な方法(銅メッキ付多芯REBCO線材の採用、適切な通電電流制御やコイル形状・位置の最適化など)について数値解析と検証実験により有効策を探り、それぞれの方策の特徴・効果を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度として、以下の研究を進める。 ・高電流密度化と高熱的安定化の両立:高電流密度化と高熱的安定化を両立する技術として無絶縁コイル巻線方式に着目し研究開発を進めてきたが、計画以上の成果が得られつつあるので、さらに検証実験等を繰り返し行いながら、その有効性の検証を行っていくとともに、当初の予定になかったが、実応用を想定し複数の無絶縁コイルから成るマルチコイルの振舞いについて検討する。すなわち、これまでに開発してきた電流・温度分布連成解析プログラムをマルチコイル用に拡張し、巻線内に局所的常伝導転移が発生したときの、他コイル(磁気的に結合)の電磁的・熱的振舞いとコイル間の電磁力のバランス変化を評価する。従来の絶縁コイルでは直列に接続されたコイルに流れる電流は全て同一であるが、無絶縁コイルでは巻線内の電流分布は同一とはならないため、コイル間の電磁力の不均衡が無絶縁コイルの実応用に向けて大きな障害となる可能性がある。 ・高磁場精度化:最も対応が難しい遮蔽電流に起因する不整磁場を低減する具体的な方法として、これまで、銅メッキ付多芯REBCO線材の採用、over-shoot法などの通電電流制御、さらに、コイル形状・位置の設計最適化などについて数値解析と検証実験により、それぞれの特徴・効果を明らかにすることができた。最終年度は、REBCO超伝導コイルの実用化に向けて、当初予定されていなかった複数の低減法の組み合わせによる有効策の確立を目指す。 ・本研究課題の集大成として、5-high基盤技術を活用したAHCの概念検証のための小型サイクロトロン(15Mev 陽子ビームの加速。引出半径:300mm、最大磁界:2T)の設計を試みる。
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