研究課題/領域番号 |
26249039
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401143)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピントランジスタ / ヘテロ構造 / 分子線エピタキシー |
研究実績の概要 |
・縦型スピントランジスタの強磁性層として用いている強磁性半導体GaMnAsに対して、ピコ秒パルス超高速ポンププローブ測定を行い、フェルミレベルをバンドギャップ中に仮定することにより実験結果を良く再現できることを明らかにした。本材料におけるフェルミレベルの位置は、デバイス応用上極めて重要であるが、長くにわたり大きな論争があり、明確な結論は得られていなかった。本研究によりこの論争を解決する重要な結果が得られたと言える。(Ishii et al., Phys. Rev. B(R)) ・強磁性半導体GaMnAs量子井戸における量子閉じ込め効果(共鳴トンネル効果)に関する新たな知見が得られた。Mn濃度が低く常磁性を示すGaMnAs量子井戸においては、量子閉じ込め効果はMn濃度の増大に対して弱くなり最後に消失した。しかし、Mn濃度がさらに増えてGaMnAsが強磁性転移を起こすと、一般的な半導体物理での理解とは逆に、量子閉じ込め効果は復活し、正孔のコヒーレンス長は増大した。本現象は強磁性と量子効果を同時に利用する新たな量子デバイスへの応用が期待される。(I. Muneta et al., Nature Commun.) ・GaMnAs3層構造を用いた横型スピンバルブ型トランジスタの基礎動作実証に成功した。(T. Kanaki et al., APL)また、縦型スピントランジスタを500nmまで微細化し、電流変調率が0.5%から30%にまで増大させることに成功した。 ・強磁性半導体GeFeを用いたFe/MgO/GeFe3層磁気トンネル接合において、世界で初めてトンネル磁気抵抗効果(TMR)を観測することに成功した。 ・ペロブスカイト酸化物LaSrMnO3電極とLaMnO3障壁を用いた対称構造で、世界で初めてTMRを初めて観測することに成功した。異常な負のTMR比が観測され、アニールの後に符合が正に変わる不可解な振る舞いを示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2016年度は、酸化物材料系における化学量論比の最適化やトンネル異方性磁気抵抗効果の測定、強磁性半導体を用いた縦型スピントランジスタの微細化を行うことを目標として掲げた。実際に、酸化物系においては、化学量論比の最適化により、LaMnO3障壁を用いた磁気トンネル接合で世界で初めてトンネル磁気抵抗効果を観測することに成功した。また、トンネル異方性磁気抵抗効果の詳細な測定によりヘテロ界面での特異な振る舞いも明らかになってきた。縦型スピントランジスタの研究に関しては、直径200ミクロンのメサで行っていた研究を、微細加工技術の精度を高め、500nmの細線で行えるようにした。その結果、電流変調量を0.5%から30%まで大幅に増大することに成功した。 このような素子作製の制御性を高める研究の一方で、予期していなかった新たな物理現象がいくつか明らかになってきている。微細縦型スピントランジスタでは、磁気異方性がサイドゲート電圧の印加により変化する現象が、世界で初めて観測された。これは将来、新たな磁化変調技術の確立につながる可能性がある。強磁性半導体GaMnAs量子井戸における量子閉じ込め効果(共鳴トンネル効果)に関する新たな知見も得られた。Mn濃度が低く常磁性のGaMnAs量子井戸においては、量子閉じ込め効果は、Mn濃度の増大に対して弱くなり消失した。しかし、Mn濃度がさらに増えて強磁性転移が起こると、半導体物理の常識とは逆に、量子閉じ込め効果が復活し、正孔のコヒーレンス長は増大した。本現象は強磁性と量子効果を同時に利用する将来の量子スピントロニクスデバイスへ応用できることが期待される。本結果はNature Communications誌に掲載され、プレスリリースも行った。 研究計画が順調に進んでいることに加えて、スピントロニクスにおける応用上極めて重要な新たな物理現象がいくつか発見されつつあり、本研究は計画以上に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の状況を踏まえ、最終年度においては、強磁性半導体を用いた縦型SpinMOSFETの動作特性を限界まで向上させること、酸化物材料系を用いたスピントランジスタの作製、ヘテロ界面での物理の更なる探求を進めていきたい。具体的には、下記のようなテーマを進める。 1.酸化物へテロ構造を用いて縦型SpinMOSFETの作製を行う。これらのデバイスではSrTiO3などををチャネル層として用いる。強磁性半導体で培ってきた微細加工技術を駆使して素子の微細化を行い、ゲート制御を試みる。またLaSrMnO3とLaAlO3トンネル接合界面で初めて観測された磁気異方性の異常な振る舞いに関して、さらに系統的な研究を行い、その起源を探る。 2.LaMnO3障壁を用いて得られた異常な負のTMRの起源の解明を行う。 3.強磁性半導体縦型SpinMOSFET素子をさらに微細化して、より大きな電流変調を目指す。また、ゲート電圧の印加によって観測された磁気異方性の変化について、詳細に研究を行い、磁化反転への応用の可能性を探る。 4.LaSrMnO3量子井戸二重障壁構造におけるTMRの観測と共鳴トンネル伝導の観測を目指す。デッドレーヤーの低減への応用を試みる。
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