研究課題
Y系超伝導線材は、結晶構造とその異方性に由来して形状は扁平なテープであり、従来の金属系低温超伝導線材において常套手段であった低交流損失化のための多芯化、大電流容量化のための撚線導体化の手法は適用できない。そのため、磁化による発生磁場の乱れ、交流損失ともに大きく、直流・交流用ともに容易に利用できない状況にある。本研究では、独自の概念に基づき、Y系超伝導線材の低磁化・低交流損失化、大電流容量化を図り、この基本的電磁特性の評価と解明を行って、低温超伝導多芯線・撚線導体に代わるY系高温超伝導線材・導体・巻線の構成法を明らかにすることを目的としている。平成27年度の研究実績の概要を以下に記す。(1)窒化アルミ製試料ホルダーに組み込んだ鞍型ピックアップコイルを用いて、外部磁場の掃引を停止した後のY系線材の磁化緩和(遮蔽電流の減衰)を磁場、温度、積層枚数を変えて観測した。その結果、遮蔽電流は磁場掃引停止直後から始まり、20Kから40Kの温度領域でも100秒で10%-20%減衰した。また、温度、磁場が高いほど、積層枚数が少ないほど、減衰が速いことを明らかにした。(2)フィラメント分轄線材、無分轄線材を小型テストコイルに巻き、直流磁場・磁界を印加して、コイル発生磁場の時間変化を高精度ホール素子で観測し、Y系線材の磁化緩和(遮蔽電流の減衰)がコイル発生磁場に与える影響を調べた。その結果、フィラメント分轄により、誘起される遮蔽電流が抑制されるとともに、遮蔽電流の減衰も増進されることを明らかにした。(3)低交流損失化を目指したフィラメント分轄線材、大電流容量化を目指した転位並列導体を、小型テストコイルに巻いた場合のフィラメント間・線材間電流分流について、理論、実験の両面から検討し、実規模コイルへの適用性について検討した。本研究成果は、新たな超伝導機器・システムの開発を推進すると期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ヘリウム資源枯渇が危惧される状況にあって、従来の金属系低温超伝導線材・導体の発展的代替手段となり得るY系超伝導線材・導体の開発を目指すものである。扁平なテープ形状を有するY系超伝導線材には、金属系低温超伝導線材において常套手段であった低交流損失化のための多芯線化、大電流容量化のための撚線導体化の手法は適用できない。本研究では独自の手法を導入してこの課題の克服を目指している。低交流損失化については、スクライビング加工によるマルチフィラメント化とフィラメント間インダクタンスを均等にしうる特殊巻線工程の組み合わせにより、また、大電流容量化については、転位並列導体構造の採用により、両課題の同時解決を行う。これら低交流損失・大電流容量化手法の商用周波(高周波)帯域における適用性については、すでに3相66kV/6.9kV-2MVA超伝導変圧器の試作により検証した。しかし、筆者はこれらY系超伝導線材・導体の電磁特性の解明に取り組む中で、交流応用よりむしろ逆に直流応用(低周波)において解決すべき課題が山積していることを見いだし、本研究では、これら線材・導体を低周波から高周波に至るあらゆる応用に適応させうるように、課題の抽出と解決を目指している。本研究に採用している線材・導体構成法は独自の手法であり、世界唯一である。本研究では、まず、Y系線材の通常の電磁(臨界電流、交流損失)特性に加えて、磁化緩和(遮蔽電流の減衰)特性を観測してその基本特性を明らかにするとともに、小型テストコイルに巻き、発生磁場を観測して、線材・導体に誘起される遮蔽電流の減衰特性を観測・評価し、独自技術であるスクライビングによる遮蔽電流の抑制および減衰の促進を確認した。すなわち、直流応用上の問題点を見いだし、解決策を講じることにも成功している。よって、研究は計画通りの進捗を辿っていると判断している。
当初の計画通りに、今後も研究を遂行していく。線材の電磁(ピンニング:臨界電流、交流損失)特性に起因する線材内遮蔽電流の減衰特性、大電流容量化を目指して転位並列導体を構成した際の素線間分流特性等々、Y系超伝導線材に特有の電磁現象を、独自の実験による観測と、理論的考察・数値計算による理論解析を駆使して、解明・把握することにより、従来の金属系超伝導線材・導体の発展的代替手段となり得るY系超伝導線材・導体の開発を目指していく。
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IEEE Trans. Appl. Supercond.
巻: 26 ページ: pp
10.1109/TASC.2016.2535178
10.1109/TASC.2015.2511455
10.1109/TASC.2015.2512910
10.1109/TASC.2016.2535315
10.1109/TASC.2016.2544351