研究課題/領域番号 |
26249045
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
浅田 雅洋 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (30167887)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / テラヘルツ電子デバイス / 室温テラヘルツ光源 / 共鳴トンネルダイオード / 周波数可変 / バラクタダイオード / スロットアンテナ |
研究実績の概要 |
電子デバイスによる単体のテラヘルツ発振素子に対して、周波数可変機能を実現することを目的として、本年度は以下の成果を得た。 共鳴トンネルダイオード(RTD)と微細スロットアンテナを集積したテラヘルツ発振素子に対して、スロットアンテナ内にバラクタを集積した周波数可変素子を提案・作製した。まず、バラクタの構造と印加電圧に対する発振周波数の変化を理論解析により明らかにし、実験においてはバラクタとRTDの積層構造を用いて、これらの層を別々にエピタキシャル成長する必要がない作製プロセスを考案して発振素子を形成した。この結果、これまで発振周波数がアンテナ長とRTD容量により固定されていたRTD発振素子に対して、発振周波数の電気的掃引機能を持たせることに初めて成功した。発振周波数変化は620~690GHz、出力は1~10マイクロワットであった。これによって、半導体電子デバイスによるテラヘルツ発振素子の応用が大幅に拡大する可能性を与えることができた。 周波数可変範囲の上端を引き上げるため、発振素子の高周波化の研究も同時に行った。発振周波数を制限する要因である電子の遅延時間を短縮するため、RTDのコレクタスペーサー層厚の最適化と狭い量子井戸を用いて、発振周波数を上昇させた。この結果、最高周波数1.86THzの室温発振が得られ、この研究開始以前に報告した単体室温電子デバイスの最高値1.55THzを大幅に更新することができた。 実験結果から電子の遅延時間を抽出した結果、最高発振周波数が得られた構造では、この影響は十分削減されていること、および、次の要因として寄生素子による外部遅延が残っていることが明らかになった。さらに、RTDの各層厚を最適化すればこの外部遅延が低減でき、発振周波数上限として2.1THzが可能であることを理論解析により示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、電子デバイスによる単体テラヘルツ発振素子に対して周波数可変機能を実現することを目的とし、今年度の交付申請時における研究計画を、(1)周波数可変発振素子の作製と特性把握、(2)発振周波数上限の物性要因の解明と周波数範囲の拡大とした。 (1)に対しては、RTDを用いたテラヘルツ発振素子にバラクタを集積することにより発振周波数の電気的掃引に成功した。バラクタ構造と印加電圧に対する周波数可変幅の変化などの特性は、理論解析とほぼ一致し、実験と理論の両面から特性を明らかにすることができた。これは、半導体電子デバイスによるテラヘルツ発振素子の応用が大幅に拡大する可能性を与える重要な成果と考えられる。 (2)に対しては、発振周波数を制限する要因としてRTDの電子遅延時間に着目し、これを縮小する構造を用いて最高発振周波数1.86THzを達成した。これは、この研究開始以前に報告した室温半導体電子デバイスの最高発振周波数1.55THzを大幅に更新する結果であり、また、これによって周波数可変素子の可変範囲の上端を引き上げることが可能になった。さらに、この実験から、電子遅延時間を抽出することができ、発振周波数を制限している要因を系統的に調べることができた。この結果、発振周波数の制限要因としてまだ残っているのは寄生素子による外部遅延であることが明らかになり、これを低減する素子構造により2THz以上の発振が可能であることを理論的に示すことができた。 以上から、研究はきわめて順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、これまでに得られた成果をさらに進展させるために、本年度に引き続いて以下の(1)と(2)を行うとともに、新たな内容として(3)を行う。 (1)周波数可変発振素子の作製と特性把握:これまでの研究で得られた周波数可変のテラヘルツ発振素子について、バラクタとRTDの素子面積と周波数可変特性の関係を理論的・実験的に明らかにして、それを素子作製にフィードバックし周波数可変幅の大きな素子を目指す。同時に、微細アンテナ、バラクタ、RTDの全体の構造最適化により高出力化および周波数に対する出力の均一化を図る。また、周波数帯の異なる周波数可変素子の多素子集積により、広い範囲の周波数掃引機能を目指す。 (2)発振周波数上限の物性要因の解明と周波数範囲の拡大:これまでの研究において、周波数上限を決定している電子遅延を短縮することができ、残った要因として寄生素子による外部遅延が重要であることが明らかになったため、これを低減するためのRTD層構造を用いて発振素子を作製し、さらなる発振周波数上限の上昇を目指す。これにより周波数可変素子の可変範囲上端も高くなるため、この結果を周波数可変発振器の共鳴トンネルダイオードに導入し、バラクタの層構造も含めた構造最適化により、周波数可変範囲の拡大を図る。 (3)周波数可変発振素子のコヒーレンス特性の解明:これまでの研究で電子デバイスの単体テラヘルツ発振素子の周波数可変機能が初めて得られたので、未知の内容としてこの素子のコヒーレンス特性の解明を行う。方法として、発振出力をヘテロダイン検波によりマイクロ波領域に下降変換してスペクトル特性を詳細に調べ、発振線幅や雑音特性、および、それらの構造や周波数・出力に対する依存性の測定および理論解析からコヒーレンス特性を明らかにする。
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