電子デバイスによる単体のテラヘルツ発振素子に対して、周波数可変機能を実現することを目的として行い、本年度は以下の成果を得た。 スロットアンテナ内に共鳴トンネルダイオードとバラクタを集積した周波数可変テラヘルツ発振素子について、昨年度までに周波数可変動作の実現、可変幅の広帯域化、および、有機物の吸光度測定への応用を行ったが、今年度はこれに加えて、小さい印加電圧で周波数が大きく変化する新たな動作モードを見出した。通常の動作モードではバラクタに逆方向電圧を印加して周波数を変化させるが、作製したデバイスでは順方向でも周波数が大きく変化することが測定され、さらに、この原因がバラクタの微分抵抗の変化を通して素子全体のインダクタンス成分が変化することであり、これにより発振回路の共振周波数が変化することを、理論解析と実験の比較から明らかにした。この動作では1V以下の印加電圧で150~200GHzと、通常の動作に比べて小さな電圧で周波数変化が起こるため、種々の応用に有用である。理論解析を拡張して、周波数変化がさらに大きく取れるバラクタの層構造や配線のインダクタンスなどを理論的に明らかにした。 また、この周波数可変素子に対してヘテロダイン受信系を構築し、バラクタのバイアス回路へ混入する雑音を低減して、発振線幅9MHzを得た。さらにこのヘテロダイン出力に対して、平衡変調器により基準信号との周波数混合を行って位相雑音を電圧信号に変換し、これをバラクタに負帰還することにより位相同期ループを構成し、周波数の安定化と線幅狭化を行った。この結果、周波数の揺らぎが抑圧され、安定化が達成できた。しかし、線幅狭化に関しては、5MHzとやや狭くなったものの、基準信号の線幅までの狭化には至らなかった。この原因は発振素子の出力が小さいことによるループ利得の不足であることがわかり、発振素子に対して高出力化構造を設計した。
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