研究課題/領域番号 |
26249052
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
能崎 幸雄 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30304760)
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研究分担者 |
渡邉 紳一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (10376535)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピン波 / 磁気光学効果 / マイクロ波アシスト磁化反転 / 磁気記録 |
研究実績の概要 |
①前年度に開発したマイクロMOKE計測装置を用いて、マイクロ波磁場に対する磁化ダイナミクスの空間分解検出を行った。マイクロ波磁場を生成可能なマイクロコプレーナ線路上に、垂直磁化Co/Ni多層膜を成膜し、任意の周波数のマイクロ波磁場を印加しながら極Kerr効果による偏光面の回転角を測定した。その結果、外部磁場がCo/Ni多層膜の強磁性共鳴条件を満足したとき、大振幅歳差運動による回転角の急激な減少が見られた。ポンププローブ法を用いることなく磁化ダイナミクスを測定可能であることを示す結果であり、GHz帯の磁化ダイナミクスを測定する新しい手法である。 ②回転磁場を生成可能な交差型コプレーナ線路上にCo/Ni多層膜を成膜し、直径2マイクロメートルのプローブ光を照射する位置を変えながら、強磁性共鳴スペクトルの観察を行った。その結果、GHz帯の広い周波数領域で回転磁場による正磁化と負磁化の選択的歳差運動に成功した。また、交差部における回転磁場の楕円率と主軸の傾き角の分布をマイクロメーターの空間分解能で観察することができた。 ③保磁力の異なる垂直磁化Co膜を非磁性Au膜で分離した強磁性多層膜を作製し、各々の磁性層の磁化ダイナミクスの選択的検出を試みた。光弾性変調器とウォラストンプリズムを組み合わせ、プリズムを回転させることにより、従来研究と同様に各層の磁化信号を選択的に検出することができた。しかし、磁性層の体積不足により、各層の強磁性共鳴スペクトルを検出するには至らなかった。 ④磁気異方性エネルギーの異なる垂直磁化膜を2層交換結合させたECC構造グラニュラー膜に対し、高強度マイクロ波磁場による磁化反転アシスト効果を詳しく調べた。その結果、単層構造膜に比べ、アシスト効果が最大となる周波数を20 %程度低減できること、およびアシスト効果の周波数分散を抑制できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、①MOKE信号の膜厚分布、②強磁性単層膜に励起した強磁性共鳴ダイナミクスの空間分解観察、③ECC構造膜に励起される非一様スピン波の観察、および④ECC構造膜のマイクロ波アシスト磁化反転特性の4点を主要な課題として研究を進めてきた。①に関しては、積層構造を有する強磁性多層膜において、各層のMOKE信号を抽出することに成功しており、当初計画どおりの進捗といえる。②では、磁化ダイナミクスを膜厚方向に分解観察することを目指してきたが、現段階では励起周波数の問題から成功に至っていない。そこで、次年度実施予定であった磁化ダイナミクスの面内分布観察を先行して行い、ミクロン程度の分解能で磁化振幅の分布を観察することができた。したがって、当初計画より遅れている部分と、前倒しできた部分があり、こちらについてもおおむね順調と判断した。③については、周波数領域でECC構造膜に励起される非一様スピン波の観察を行い、マイクロ波アシスト磁化反転特性の解明に必要な情報を得ることができた。④は、磁気異方性エネルギーの異なるECC媒体についてマイクロ波アシスト磁化反転実験を行い、単層媒体と比較することにより、ECC媒体の優位性を明らかにすることに成功しており、当初計画どおりの成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
磁化ダイナミクスの膜厚方向における分解観察を実現するため、高分解能の偏光分析が可能なバビネソレイユ補償板を組み合わせたマイクロMOKE測定系を検討する。これまでにもバビネソレイユ補償板を利用したMOKE測定を試したが、補償板近傍の多重散乱効果により、MOKE信号の時間安定性が低下する問題が生じ、バビネソレイユ補償板を利用しない方式で磁化ダイナミクスの検出を行ってきた。しかし、磁化ダイナミクスの膜厚分解には、MOKE信号測定の更なる高感度化が不可欠であり、バビネソレイユ補償板の組み込みが必要である。そこで、前記の問題点を解決するため、開口部の大きなバビネソレイユ補償板を利用し、光軸に対して補償板の光軸を傾けて挿入することにより、多重散乱効果の低減を目指す。
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