研究課題/領域番号 |
26249094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野口 祐二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (60293255)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 光電変換 / 格子欠陥 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,強誘電体を用いて革新的な太陽電池デバイスを開発し,既存の太陽電池を超える機能を創出することである.本研究では,単結晶で得られた研究成果を基盤として,薄膜太陽電池デバイスを開発する.分極構造設計と電子状態制御の有機的な連携により,可視光照射による光電変換(可視光発電)特性の飛躍的な向上をねらう. ニオブ系試料を対象として,光学活性中心としてマンガンイオンを選択し,試料の合成および構造解析を行った.二価のマンガンイオンおよび三価のマンガンイオンの同時置換によって電荷中性条件を満足できるという、欠陥生成機構を解明することができた。その結果、従来試料では1%程度にとどまっていたマンガン置換量を15%程度にまで増大させることができ、20倍以上の吸光度を示す高品質マンガン置換ニオブ系強誘電体の合成が可能となった. マンガン置換ニオブ系強誘電体の電子状態を第一原理計算により解析した.三価のマンガンイオンはバンドギャップ(4 eV)の中心付近に電子に半占有された欠陥準位を形成する.この欠陥準位にある電子は,約1.6eVのエネルギーをもつ光の照射により,ニオブのd軌道から構成される伝導帯に励起できる.また,二価のマンガンイオンは,伝導帯の下端から2.5eVの位置に電子に占有された欠陥準位を形成する.この欠陥準位に存在する電子も,可視光の照射により伝導帯に励起できる.加えて,2種類の価数を持つマンガンイオンは,ともに分極方向にイオン変位することにより,局所的に対称中心が破れた位置に存在しているため,光電変換活性を示す.以上の電子状態解析により,ニオブ系強誘電体において,マンガンイオンは光学活性中心として機能し,可視光電変換に決定的に重要な役割を果たすことが明らかになった. また,高濃度にマンガンを置換したニオブ系薄膜は,90ボルトを超える大きな開放端電圧を示すことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニオブ系強誘電体に光活性中心を導入する欠陥制御指針を確立するために,マンガンイオンを欠陥種として選択して,物質合成,構造解析および物性評価を行った.二価のマンガンイオンと三価のマンガンイオンの置換によって電荷中性条件を満足できるという、欠陥生成機構の解明に成功した。その結果、従来試料では1%程度にとどまっていたマンガン置換量を15%にまで増大させることができ、20倍以上の吸光度を示す高品質試料の合成が可能となった。 マンガン置換ニオブ系強誘電体薄膜を,パルスレーザー堆積法により成膜した.ベース圧力を下げて成膜することを目的として,酸化力の強いオゾンを供給ガスとして選択した.また,ターゲットの組成,基板温度,レーザーパルス周波数等を最適化することにより,高品質なエピタキシャル薄膜を作製することができた.その結果,マンガン置換ニオブ系薄膜において,強誘電体薄膜で最高の開放端電圧(90V)を得ることに成功した.さらに,カチオンを還元することにより,開放端電圧と短絡電流を制御できることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
1.発電原理の検証:強誘電体における発電原理を検証するために,バルク光起電力効果およびドメイン壁光起電力効果を考慮した定量解析手法を確立する.バルク光起電力効果は,強誘電体母結晶における中心対称性の破れに起因する.ドメイン壁光起電力効果は,強誘電体の分極が回転するドメイン壁において,局所的な空間対称性の破れに起因する.これらの効果を定量的に解析することで,強誘電体光起電力効果による発電原理を検証し,材料設計指針の構築へ展開する. 2.出力電圧制御のための分極構造設計:ドメイン壁の局所的空間対称性の破れが支配的な系においては,ドメイン壁光起電力効果を積極的に利用した分極構造設計が,出力電圧の増強に有効であることが期待される.薄膜を堆積するにあたり,基板のオフ角および基板上のバッファー層を制御することにより,分極構造の異なる強誘電体薄膜を作製し,光電変換特性評価を通して,分極構造設計指針を構築し,出力電圧を制御する. 3.第一原理計算による新材料の探索:バンドギャップが比較的大きい強誘電体において,バンドギャップ無いに電子占有の欠陥準位の導入が,可視光起電力効果の増強に有効であることが,マンガンおよび鉄置換試料の計算および実験で明らかになっている.ここでは,他の遷移金属元素も視野に入れて,第一原理計算により遷移金属が形成する欠陥準位の深さおよび電子の占有状態を予測して,可視光電変換機能を示す新材料を探索する. 4.光電変換効率向上のための電子状態制御:現在までの研究において,バンドギャップ中に電子占有の欠陥準位を導入する欠陥制御が,光電変換特性の向上に有効であることが計算と実験により明らかになっている.ここでは,欠陥濃度の制御により電子構造における欠陥準位のバンド分散を制御することにより,欠陥バンドの形成を狙い,可視光電変換特性の飛躍的な向上をねらう.
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