本研究の目的は,強誘電体を用いて革新的な太陽電池デバイスを開発し,既存の太陽電池を超える機能を創出することである.本研究では,単結晶で得られた研究成果を基盤として,薄膜太陽電池デバイスを開発する.分極構造設計と電子状態制御の有機的な連携により,可視光照射による光電変換(可視光発電)特性の飛躍的な向上をねらう. 今年度は、強誘電体を用いた高電圧出力用の光電変換デバイスの可能性を探った。自発分極を持つ強誘電体は、バンドギャップの制約を打破する高電圧を発生できるという利点を持つが、バンドギャップが大きいため可視光をほとんど利用できないという課題を抱えている。遷移金属元素のd軌道由来の欠陥準位をバンドギャップ内に導入するギャップ準位エンジニアリングにより、可視光吸収による光起電力効果の発現を可能とする強誘電体の材料設計指針の構築を目的とする。モデル物質として、ニオブ系材料を選択し、遷移金属を高濃度にドープした薄膜を作製した。 可視光起電力特性の向上を可能とする強誘電体の欠陥準位制御指針を確立するために、ニオブ系薄膜を対象として、欠陥制御および光起電力特性評価を行った。Mnドープ膜と比較して、Cuドープ膜は、大きな光起電力応答を示し、特に、酸化したCuドープ薄膜は強誘電体で最大,かつ半導体太陽電池を遙かに凌駕する開放電圧を示した。これは、CuIIによって形成された電子半占有準位がバンドギャップ中間近傍に位置し、電子励起の足場として機能することに由来する。バンドギャップ中間近傍への電子半占有欠陥準位の導入が、強誘電体の可視光起電力効果の増強に有効であるという欠陥準位制御指針が得られた。
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