研究課題/領域番号 |
26249096
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武藤 俊介 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20209985)
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研究分担者 |
巽 一厳 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (00372532)
大塚 真弘 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60646529)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 格子欠陥 / 電子顕微鏡 / 電子分光 / 統計情報処理 / 多変量解析 / 電子チャネリング / 機能元素 |
研究実績の概要 |
当該年度末までに,懸案であったEELS,EDX,CL検出器の制御システムを統合し,一つのPCプラットフォーム上で同時に同じ回折/照射条件でこれらの分光測定を行うシステムが完成した.これによって複数の分光データからなる多次元データが得られるようになった.また当システムを利用した具体的な成果として以下の項目が挙げられる: (1)ビームロッキングによる電子チャネリング条件下でのEELS/EDX同時測定の実施によって,リチウム二次電池正極材料の陽イオン配列とその価数変化を定量的に捉えることに成功した.この論文は欧文誌Microscopyに6月掲載予定であり,Editor's Choice論文に選定され表紙を飾ることになった. (2)バイオフィルム感染症へのナノ粒子によるドラッグデリバリー機構のSTEM-CL法の応用手法を開発した.ここではナノ粒子に蛍光物質を付与し,それがバイオフィルムに浸透していく様子をTEM-CLによってナノメートル分解能で可視化する事に成功した.その最初の成果を論文として公表した. (3)STEM-EELS法を低摩擦化のための窒素含有非晶質炭素コーティング膜の分析に応用し,新たなナノトライボロジーという分野を切り開きつつある.実際にコーティング材の摺動後の断面を分析することにより表面付近のミクロ構造及び化学状態の変化によって表面が不活性になることが明らかになり,これまでの摩擦の概念を大きく変えつつある. (4)2DビームロッキングEDX分析及び統計処理によってフェライト磁石材料に添加する機能元素不純物の占有サイトを正確に測定する手法を確立した.この成果は欧文誌Microscopyに掲載された. (5)STEM分光スペクトルの情報統計処理法として低ランク行列分解法によるスペクトル分解とその可視化法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的通り,一台のSTEM機に装着した複数の分光検出器の制御システムを一つのPCの同一プラットフォームに統合し,STEM機の入射電子方向や回折条件の制御とこれらの分光器の計測を連動させ,同時に多角的な測定情報を同一場所から測定することができるようになった. 上記のシステムによって得られた多角的多次元データセットはいわゆるビッグデータであり,機械学習法による情報抽出が有効であることを提案してきた.当年度は,従来当グループが開発した非負行列分解法を拡張し,懸案であった抽出スペクトル間のクロストーク問題及びデータに内在する純スペクトル成分の数をデータ自身から割り出す手法を開発することに成功した.この成果の論文は現在審査中である. また当研究グループ独自の分析手法として電子チャンリングを利用したサイト選択的分析法は,さらなる進化を遂げ,フェライト磁石,次世代航空機タービン用耐熱コーティング,強相関超伝導体など広範な材料分析へと応用が広がりつつある.現在,軽元素不純物のサイト占有率評価において,理論と実験の食い違いが見いだされており,この問題を解決することが喫緊の課題となっている.
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今後の研究の推進方策 |
今後,開発した多元電子顕微分光システムと情報統計学に基づくデータ解析法を様々な実材料の分析へと応用展開していくことを推進する.そのために具体的に以下のような項目を課題とする: (1)入射電子条件を連続的に変えながら複数の分光器による測定を行うための自動測定データ収集スクリプトを作製する.これらは様々なオンライン補正機能を持ち,精度の良いかつS/Nの良いデータ収集に寄与するものである(測定中の試料ドリフト補正,積算によるノイズ低減など). (2)得られる多次元データからの情報抽出アルゴリズムの開発:これまではデータ構造として空間座標とスペクトルチャンネルといういわゆるTwo-way解析であったが,データが多次元となることに従い,次元を拡張したテンソル分解法の適用を試み,より効果的なデータ抽出法を開発する. (3)上記進捗方法欄で述べた電子チャネリング条件を利用したEDX分析において見いだされた軽元素不純物の解析精度の問題を解決する.すでに軽元素を含む標準結晶物質の測定と理論計算の比較を開始しており,制動放射によるバックグラウンドなどの実験的な問題なのか,解析法の原理的な問題化であるのかの切り分けを行っている. その他,STEM-CLシステムのバックグラウンドノイズ問題などを一つずつ解決していく方針である.
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