研究実績の概要 |
昨年までに創成に成功した微細繊維状結晶粒組織を有する800MPa級の0.15%C-0.3%Si-1.5%Mn成分の棒鋼(AR材,WR材)を対象に,層状破壊を引き起こす微視き裂発生のクライテリアである脆性破壊応力と結晶粒径の関係について検討を行った.AR材とWR材の短軸粒径はそれぞれ1.3ミクロンと1.0ミクロンであった.その他として,通常の熱処理組を施し,同成分でフェライト粒径18ミクロン(CG材),および加工熱処理により創成したフェライト粒径10ミクロン(FG材)の材料も準備した.実験では,AR材,WR材の14mm幅の両端をSS400相当鋼と溶接後,繊維(圧延)方向と初期ノッチ(ノッチ底の局率半径0.13, 0.25mmの2種類)の方向が平行となる3点曲げ試験片を作成し,温度-196℃で3点曲げ試験(10mm角×55mm長さの試験片)を実施した.4つのサンプルは全て脆性的に破壊した.ノッチ底の応力はFEMで定量化し,実験で脆性破壊した押込み量におけるノッチ底の応力を脆性破壊応力sFとした.結果として,脆性破壊応力sFは係数×有効結晶粒径の-0.5乗に比例して増加し,結晶粒径が18ミクロンの場合のsFは1.6GPa,1.0ミクロンの場合は6.8GPaと試算された.もし,比例関係が維持されると仮定すれば,粒径0.1ミクロンでsFは22GPaを示し,鋼の理想強度E/10に相当することが示された.また,このときの係数は,ホールペッチの関係にある降伏応力と結晶粒径の-0.5乗の係数の10倍以上大きくなることがわかった.これは,結晶粒微細化は,降伏応力向上に比べ,脆性破壊応力を飛躍的に向上させることを意味しており,結果として脆性延性遷移温度DBTTが改善(低温化)する. これまでの結果をサーベイし,強くて壊れにくい鋼の方向性について検討を行った.
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