研究課題/領域番号 |
26249115
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 周 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10182437)
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研究分担者 |
三好 正悟 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (30398094)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エコマテリアル化 / 省エネルギープロセス |
研究実績の概要 |
電気化学的方法によるメタノール合成反応において重要な酸化物カソード表面におけるCO2還元反応の律速段階を明らかにするために,昨年度にプロトタイプが完成した薄膜積層型電解セルを用いた電気化学実験を行った.マイクロポーラスアルミナ基板上にナノポーラスγ-アルミナ層を形成し,さらにPd膜/厚さ300~500nmのYSZおよびGDC電解質/触媒電極の順にRFスパッタ法で形成して積層型薄膜セルとした.H2-CO2混合ガス中で一室型二端子セルを構成し,サイクリックボルタンメトリ(CV)測定,交流インピーダンス測定などによりカソード反応を評価した.触媒電極としては,これまで検討してきた熱化学反応におけるメタノール合成に関する触媒活性を基にして,純銅,銅-亜鉛合金,ZnOナノ粒子表面上にコア/シェル状に銅ナノ粒子を担持した触媒電極,酸化亜鉛ナノ粒子のみ,TiO2ナノ粒子電極などについてカソード活性を測定した.また比較のために高いプロトン伝導性有するCsH2PO4(CDP)焼結体ディスクを用いたバルクセルを用いた測定も行った.200℃における薄膜積層セルならびにCDPバルク電解質セルを用いた電気化学測定からは,いずれの触媒電極においても主なカソード反応は水素発生であり,CO2を選択的に水素化できなかった.ガスクロマトグラフによる排ガス分析でもアルコール類合成が確認できなかったため,プロトンの還元反応が主たるカソード反応であると結論した.また,触媒金属であるCuの電子状態の解明を,X線吸収・光電子分光により行い,最適な酸化状態について解析を行った.これは触媒の熱化学的反応活性・化学/電子状態の評価において,触媒金属であるCuの電子状態(酸化状態)が担持および熱処理条件により極めて複雑に変化することが明らかとなったためである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では,バルク電解質セルによってプロトン伝導が詳細に知られているCDPバルク電解質セルを用いた検討も加えた.その結果Pd-Hアノード過電圧は非常に小さいこと,カソード電極側では様々な方法で作製した触媒電極全てが,水素の発生反応が優勢であることを明らかにした.新たに反応の空間次元性について考察を加え,酸化物担持Cu触媒などではCO2水素還元反応の活性点が電解質/担持酸化物/金属(Cu)電極/ガス相の4相共存点となってしまうために,反応効率が非常に低くなることが判った.またCDPのブレンステッド酸性が高いために,プロトンとCO2の有線反応が起こらなかったものと推定した.同時にカソード電極としては,電子-プロトン混合イオン伝導性により反応活性点の空間次元性を下げて2次元反応場へと反応場を拡大することが重要との反応場の空間次元性に関する原則が確認された. ab-initio MDシミュレーションについては着実に計算が進み,YSZ表面上におけるCO2吸着反応とそれに伴う表面の酸塩基性の変化,及びこれに伴うプロトンのホッピング伝導の低下のメカニズムについて検討した. 弱い還元性雰囲気からTiO2ナノ粒子バルク体が高いプロトン及び電子伝導性を示すこと,TiO2のバンドギャップを越える紫外光照射によって新たに高いプロトン伝導性が現れることが明らかになり,この光電子活性を利用する新しい触媒電極の可能性に関する新しい着想を得た. 表面の酸塩基性の重要性が明らかになったことに加え,反応機構としてYSZ/GDCの中温域で現れる酸化物イオン伝導体粒界の水を介したプロトントランスファーを有効に利用してCO2の水素化反応に関する新たな発想やヒドリドイオン伝導体の活用などの進展もあり,これらの検証を進めることが重要であるとの判断により,研究手法の変更を行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では,二端子型のバルク電解質セルを用い,直流分極特性を検証したが,前述のように水素発生が主たるカソード反応として観察された.今後は三端子セル,および二室型セルの分極特性を測定し,吸着炭酸塩→表面ギ酸基→表面アルコキシドへの各反応素過程の律速段階とアノードならびにカソード過電圧の大きさを調べる.触媒の空間次元性の点から考えて,(1)プロトン-電子混合伝導体による反応場の二次元化(低次元化),(2)プロトン還元反応とCO2の水素化反応の同期の実現のための表面酸塩基点の設計・制御,(3)ヒドリドイオンなどの高い還元を有するイオンの利用,(4)酸化物イオン伝導体を利用した還元反応の利用可能性などについて,集中的に検討を行うことが必要である.これらは本研究の段階が触媒活性とその起源についての解明に的を絞る段階に進んだことを意味している.また,これらの原子レベルでの反応素過程とメカニズムの解明には,ab-initio分子動力学シミュレーションを駆使して,CO2ならびにその還元吸着体である表面ギ酸基,アルコキシド基の吸着・加水分解挙動と還元反応素過程についての検討を行う必要がある. 従来からの課題としては,フォトンファクトリーにおけるXAS/PES測定,及びFT-IR/Raman分光測定においてその場電気化学分極測定を行い,表面還元体の生成過程を追求する. 新たに見出されたTiO2ナノ粒子における混合伝導性と光活性プロトン伝導は,光触媒で既知の電荷分離反応によるTi4+イオンの光還元反応と表面水酸基生成による親水性に関係しているが,この光還元反応のアシストを利用する新しいアルコール合成反応についてその可能性の検討と原理の実証を試みる.
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