研究課題/領域番号 |
26249120
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 潤一郎 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (60218576)
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研究分担者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオマス / 水熱改質 / リサイクル / ガス化 / 活性炭 / リグニン / コークス |
研究実績の概要 |
本課題申請時の研究目的および計画に沿ってバイオマスシーケンシャル改質・転換プロセスに関する実験的検討(以下の1~4)を実施し,それぞれについて新知見を得た。 (1)バイオマスの水熱処理において発生する水溶液(改質液)をリサイクル利用するプロセスを,繰り返しバッチ試験によって実験的に模擬した。改質固体収率(炭素基準,250°C処理)は改質液リサイクルによって72%から85%にまで増加し,迅速に定常に達すること,その後は,水溶性成分(有機酸,フラン類),ガスの収率も一定に達すること,さらに,原料の含水率を一定値未満に抑えると,改質液の完全リサイクル(発生ゼロ)が可能であることを示した。 (2)有機酸生成による改質液の酸性化(pH低下)は,原料バイオマス中の金属種(ガス化触媒前駆体)をほぼ完全に除去するに十分であることを明らかにした。このことは無機酸を使って事前処理した原料から調製した炭化物(チャー)と改質固体由来のチャーの水蒸気ガス化速度がほぼ同等であり,しかも反応の全域が一次反応によって定量的に記述できることによって証明した。 (3)改質固体から調製したチャーおよび酸処理チャーの水蒸気ガス化によって比表面積が2,500 m2/gを超える活性炭を調製できることを示した。金属種(触媒)はチャーの比表面積増大を抑制する働きをすることが判明した。 (4)改質固体を原料とする熱間成型・炭化法によってコークスを調製した。水熱改質条件(温度・時間)を改質固体の化学構造を因子としてそれぞれ最適化した結果,40~60 MPaの引張強度を有するコークスを製造することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究申請時に掲げた本研究の目的・目標に照らして,現在までの達成度を報告する。(1)バイオマスを180°C(飽和蒸気圧=1 MPa)以下の温度でセルロース・ヘミセルロース由来の有機酸と金属イオンフリーの改質リグニンに転換・改質する改質液リサイクル式水熱処理を提案した。リサイクル式水熱処理プロセスの成立条件と有効性は明らかにし,予期しない新知見を得たが,セルロースの分解には240~250 °Cが必要であることも判明した。残る課題は低温化である。(2)改質固体から比表面積>2,500 m2/gの活性炭を調製する目標は既に達成した。加えて,金属触媒フリーの無触媒ガス化によって初めてこのような高比表面積を実現できること,反応機構も明らかにした。これにより活性炭製造の新分野を開拓できた。(3)改質固体を原料として,引張強度>50 MPaの炭化物を調製することに成功した。炭水化物を極力除去あるいは固体に変性させること,リグニンの解重合を可能な限り促進し,重合を抑制する必要性も示した。(4)上記の(2,3) に関連して,水熱改質が触媒となる金属種を事実上完全に除去することを,リサイクル反応系においてもその性能が発揮されることを明らかにした。(5)改質リグニンからフェノール類を15%以上の収率で得る重質油リサイクル式熱分解を提案したが,この熱分解は未着手である。ただし,リグニンをアルカリ熱水中で短時間処理することによって10%前後の収率でモノマーを取得することに成功した。 以上のように,(1)~(5)の目標のうち,(1)(5)は未だに課題が残されているが,(2)~(4)については,研究の1年目(研究期間3年)で既に達成した。総括すると,本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度を踏まえ,今年度は全目標達成と新たな展開研究のため,以下に取り組む。 (1)改質固体(リグニンリッチ固体)の水熱反応,有機溶剤中の反応によるリグニンモノマーの高収率製造法の開発:水熱改質によって草本系バイオマス(例えば,タケ,籾殻)中のリグニンはベンゼン・エタノール混合溶媒に相当の割合が溶解することを発見した(水熱条件の最適化による)。そこで,溶解性が増大したリグニン(加えて炭水化物の変性物)のアルカリ熱水処理,あるいはこれに接触分解,水素化分解組み合わせた方法による解重合の促進を狙う。加えて水熱改質の低温化は,水に安価な塩(NaCl,CaCl2)を添加することによって加水分解を促進し,これにより目標達成を試みる。 (3)改質固体(リグニンリッチ固体)の迅速熱分解によるリグニンモノマーの高収率製造。熱分解によるリグニンモノマーの製造は本研究の当初目標の一つであったので,これを実践する。ただし,事前調査研究(今年度)において迅速加熱が揮発成分増大に有効であるとの知見を得たので,迅速熱分解法ならびにこれに重質油リサイクルあるいは適度な気相クラッキングを組み合わせることによってモノマーの高収率化を目指す。 (4)Siバイオマスである籾殻,稲わらの水熱改質では,Si成分(SiO2あるいはその前駆体)が高度分散した固体が得られることを確認した。そこで,固体中のSi成分を活用し,褐炭から調製できる高強度コークスの反応性制御として改質固体を添加する新コークス製造法の開発に取り組む。 (5)改質固体は,有機溶媒に対する溶解性が高いので,これを利用して,リグニン芳香族の水素化に取り組む。リグニンのような酸素官能基が豊富な芳香族高分子の全水素化は過去に例がないが,高機能触媒によってこれを達成し,リグニンの水素キャリア(燃料にも樹脂,化学原料にも適用可)への変換に挑戦する。
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