研究課題/領域番号 |
26249120
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 潤一郎 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (60218576)
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研究分担者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオマス / 水熱処理 / リグニン / モノマー化 / 水素化 / 熱分解 / ガス化 / コークス |
研究実績の概要 |
前年度の成果を踏まえ以下の課題a~d(c,dは追加課題)に取り組んだ。 課題a: タケの200℃水熱改質によってリグニンの約50 wt%を溶剤可溶成分に転換した。可溶リグニンの迅速熱分解によるモノマー収率は前例のない60%に達した。不溶リグニンからの収率を合わせた収率は改質固体基準で約20 wt%に達した。すなわち水熱改質,改質固体の分別,熱分解のシーケンスによってモノマー収率>15 wt%を達成した。 課題b:バイオマスに塩を添加して水熱処理すると,酸の添加なしに水のpHが<2に低下し,セルロースの加水分解が起こることを見出した。200℃でもセルロースの80%以上を分解し,HMFやレブリン酸等が高選択性で生成できることを示した。 課題c: 籾殻の水熱改質固体を独自の間成型・炭化法によってコークス化した。コークスは灰分含有率(主成分SiO2)が49 wt%であるにも拘らず,高い引張強度(20 MPa)を有することを示した。高SiO2含有率の物性を生かし,SiO2を触媒(アルカリ・アルカリ土類金属)の失活材として利用し,褐炭コークスの反応性低下に挑戦し,コークス強度の低下なしに反応性の低下(50%以上)を実現した。この取組みを通じ,炭化物ガス化に関する新反応機構・速度モデルを構築した。無触媒・触媒反応の並列的進行,複数の触媒種と個々の失活速度論の考慮によってガス化率0~99.95%におけるガス化速度の定量的記述に成功した。 課題d: リグニンの新改質法として芳香族水素化を提案した。新規法によりNiナノ粒子高分散ZSM-5触媒を開発し,その性能を10種のフェノール性化合物について実証した。ついでリグニンの水素化に取り組み,200℃以下で水素化率>50%を達成した。水素化物の熱分解における固体残渣収率はわずか7 wt%であり,前例のない残渣フリー熱分解に近づいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は,申請時から全く変更していない。目的は次の通りである。「バイオマスを180°C(飽和蒸気圧=1 MPa)以下の温度でセルロース・ヘミセルロース由来の有機酸と金属イオンフリーの改質リグニンに転換・改質する改質液リサイクル式水熱処理,そして,改質リグニンからフェノール類を15%以上の収率で得る重質油リサイクル式熱分解を開発する。さらに,熱分解チャーの無触媒水蒸気ガス化,成型リグニンの重質油リサイクル式熱分解によってそれぞれ比表面積>2,500 m2/gの活性炭,引張強度>50 MPaの炭化物を調製する。水熱処理については「高濃度化した自生有機酸を触媒とする炭水化物転換の促進」の原理を明らかにし,一方,改質リグニンの転換については,改質リグニンがアルカリ・アルカリ土類金属フリーであるが故に上記のプロセス・製品スペックが達成可能であることを証明し,これらにより新規バイオマスシーケンシャル改質・転換の有効性を示す。」 平成26年度実績報告ならびに本年度実績(前項)に述べたように,以上の研究目的はこれまでにほぼ全て達成した。残る課題は,本研究が当初計画以上に進展し,それにより追加した新課題についてのものである。新課題に関しては,次項(今後の研究の推進方策)に述べる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究では,水熱改質液リサイクルを検討し,定常状態,改質固体収率の増大,炭水化物の加水分解・溶解→再重合→固体としての析出の転換経路解明, リグニンの解重合・溶剤可溶化,改質液完全リサイクルならびに金属種除去を実証した。ついで,改質固体の化学組成・物性・反応性の活用と課題克服による改質固体からの高強度コークス(引張強度40~60MPa)の製造,改質固体の水蒸気ガス化(薬剤なし)による比表面積>2500m2/gの活性炭製造,改質固体から分離した溶媒可溶性・非可溶性リグニンの迅速熱分解によるリグニンモノマーの製造(収率>20 wt%-改質固体),Siリッチ改質固体(籾殻)を反応性低下材(添加材)とする褐炭からの高強度・低反応性コークスの製造などに成功した。ただし,改質固体,リグニンの反応特性,生成物の詳細化学組成と他の物性を明らかにする課題が残っている。そこで,本年度は以下の課題に取り組む。(a)バイオマス,改質固体由来炭化物のガス化反応特性を定量的に記述する反応速度モデルの構築と触媒作用詳細解明:モデル解析によって与えられる触媒反応速度や失活速度が,含有金属種の何によって決まるのか,加えて炭化物全域で均一進行する無触媒反応速度は炭素質の何で決まっているのか,明らかでない。これらを明らかにする課題に挑戦する。(b)リグニン水素化:開発触媒をさらに高性能化し,リグニンを適度な水熱処理によって低分子化する前処理によって水素化率をさらに高め,全水素化リグニンの調製に挑戦する。全水素化が成功すれば,再生可能エネルギー由来の水素を活用し,全水素化リグニンの迅速熱分解+気相分解によってフェノールおよびC2~C4オレフィンを合成する新転換パスを実現できる。(c)水熱処理によって得られた低分子化リグニン熱分解機構を解明し,さらに気相クラッキングによるフェノール等の収率最大化に取り組む。
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