研究課題/領域番号 |
26249145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関 修平 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30273709)
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研究分担者 |
佐伯 昭紀 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10362625)
櫻井 庸明 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50632907)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオンビーム / 粒子線 / 固相重合 / 1次元 / ナノワイヤー / STLiP / SPNT / ポルフィリン |
研究実績の概要 |
近年、ナノエレクトロニクスの発展に伴い、有機半導体ナノワイヤーの研究・開発が盛んに行われている。本研究では考えうる最も細いビームとして単一粒子に着目し、材料に高エネルギー粒子を照射することで、飛跡に沿った円柱状空間のみでの架橋反応を起こし、トップダウン的にナノワイヤーを形成できる単一粒子ナノ加工法(SPNT)をもとにして、従来までSPNT法の有効なターゲットであった高分子材料から脱却し、あえて低分子をもとにしたより汎用性の高いナノ構造体形成手法の新しい研究を行っている。本年度、ナノ構造化に使用する分子の側鎖にアルキン置換基を導入すると、架橋効率が著しく向上することを見出した。 実験は主に日本原子力研究開発機構・インド大学間加速器センターの各種イオンビームを使用して行った。ターゲットには主にポルフィリン誘導体を用い、高エネルギー加速粒子を照射後、有機溶媒に浸漬して現像を行った。その後、基板上に形成されたナノワイヤーを原子間力顕微鏡(AFM)により直接観測し、そのサイズ・形態の評価を行った。 全て分子群においてナノワイヤーの形成をAFM観察により確認したが、アルキン置換基を持たない化合物ではワイヤー構造の崩壊も多数見られたのに対し、豊富にアルキン部位を含む分子では剛直性の高いナノワイヤーが得られた。反応点であるアルキン部位が三次元方向に多数配置された分子構造をもとに重合反応が進行した結果であると考えられる。アルキン基の粒子線照射に伴う消費を赤外分光測定で追跡することで確認した。同時にナノ構造化後、出発物質であるポルフィリン骨格由来の物性について、1)光吸収能の保持、2)ナノワイヤー形成後の中心金属の導入・置換、について紫外可視吸収スペクトル測定により確認し、π共役系一次元ナノ構造体の形成を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでのナノ空間な高分子ゲル化の追跡といったアプローチを超え、本研究では低分子を対象に、超微細空間内で有機分子の重合反応が選択的に誘導できることを実証し、これを機能材料へと展開することを目標にしている。研究初年度においてすでに、有効な重合反応の誘導が行われていることを明確に指摘し、これを単離することに成功した。特に、ポルフィリン誘導体への三重結合基導入は、きわめて高効率な重合反応を誘導し、高分子材料をベースのしたものと遜色のない1次元ナノ構造体を与えている。特筆すべきは、高分子材料をもとにしたナノ構造体とは異なり、機能性コアユニットの固体内存在量を飛躍的に向上させることが可能となった点であり、特に26年度はポルフィリンコアユニットのナノ構造体内の分布とその機能性残余を利用して、ナノ構造化後に中心金属の置換が可能であること、またこれを利用した電子構造の制御が可能であることを指摘した。 加えて、ペンタセン・テトラフェニルエチレンといった電子・光機能性アセン類の三重結合導入による重合反応の制御にも成功しており、これらのユニットを利用した電子伝導性ナノ構造体の配線技術にも展開が期待できる。 本研究で明らかにされた重合反応の制御性は、その生長反応と停止反応の競合から、エネルギー付与密度の変化に極めて敏感であり、クラスターイオンビームに代表される高エネルギー荷電粒子集合体のエネルギー付与密度分布の可視化にも応用が期待できることが示唆され、当初の研究計画を超えた成果が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
単一粒子による1次元制御性重合反応の進行は、これまでのSingle Particle Nanofabrication Technique (SPNT)の適用範囲を飛躍的に拡大できる可能性を秘めており、Single Particle Triggered Linear Polymerization (STLiP)としてより広い材料適用範囲を検討していく。 特に前項のクラスターイオンビームの可視化については、材料内での荷電粒子と材料の相互作用により、分裂した荷電粒子の飛跡を、そのエネルギー付与過程を含めて可視化できることを示唆している。今後この手法を新しい相互作用可視化法として積極的に展開していく。 機能性コアユニットを有する低分子1次元重合反応により形成されたナノ構造体については、特に1)中心金属の置換、2)高アスペクト性を生かしたパーコレーションネットワークの形成、を通じて、材料そのものが有する電子機能性を最大限に発揮した評価につなげる予定である。 重合反応基として有効な3重結合置換基は、温和な条件下でナノ構造体の表面を高度に機能化できる可能性を秘めている。今後、この表面に豊富に存在する反応性末端を利用したナノ構造体の表面機能化についても、特に平成27年度の研究において検討を進める。 本研究は、国内においては日本原子力研究開発機構、国外においてはインド大学間加速器研究センターとの共同研究をすでに積極的に進めており、研究機関中に高エネルギー荷電粒子による有機1次元ナノ構造体の形成にかかわる世界ネットワークの形成を目指す。
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