研究課題
架橋型の反応を示す高分子材料あるいは高い連鎖重合反応効率を示す低分子材料の薄膜に高エネルギー加速粒子を入射すると、付与されるエネルギーによりイオントラック内に架橋反応点が選択的に分布し、分子間架橋/重合反応といった不均一な反応を介してゲル化を誘起することをこれまで明らかにしてきた。特に、高エネルギー粒子による線形固相重合反応により、さまざまな機能性低分子材料を自由にナノ構造化することが本研究の最大の目的である。今年度は、(1) 高効率で固相重合反応を示す低分子材料の分子設計指針の知見の拡大、(2) 蛍光発光性を示すナノワイヤの創成とセンシング機能の実演、(3) クラスターイオンを用いたナノ構造体の創製、について研究を実施した。(1)について、これまで開拓してきたアルキン基の導入だけではなく、芳香環のハロゲン化が有効であることを見出した。この解釈として、ハロゲン化誘導体では高エネルギー重粒子イオンの照射によって解離性電子付着反応が優先進行し、多数のラジカル種が生成しているというモデルが提唱された。(2)について、凝集状態において高い量子収率で蛍光発光を示す分子骨格に適切な溶解性側鎖を導入した低分子材料を用いることで、本手法により鮮明なナノワイヤが単離され、元の低分子と同様のパターンの蛍光発光スペクトルが観測された。さらにこのナノワイヤは少量のニトロベンゼン存在下で蛍光クエンチを示し、センシング機能への展開が可能であることが見出された。(3)について、C60クラスターイオンの低分子材料薄膜への照射を実施したところ、現像操作をせずともイオン照射部位が隆起し飛跡検出が可能であることが明らかとなった。この薄膜の現像を行ったところ、C60イオンのクーロン爆発を示唆するナノ構造体が得られ、高次クラスターイオンと有機化合物との相互作用の可視化への足掛かりを得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度以降の予定として挙げていた、② 金属錯体からなるナノワイヤー、 ③ 異種有機接合ナノワイヤー、④ 金属有機接合ナノワイヤー、のそれぞれの項目についてはすでにその実証を終了し、論文の発表、もしくは投稿準備の段階にまで達している。これらの当初予定に加え、さらにその光学特性を生かしたセンシング材料への展開にも着手しており、当初の研究計画を超えて大幅に研究が進捗していると考える。
次年度はセンシング機能のさらなる実演と金属-有機ヘテロナノワイヤの創製を特に推進する。
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