研究課題
ある種の鍵構造を有する低分子有機化合物からなる薄膜試料に加速器から生成した高エネルギー荷電粒子を入射した際、付与されるエネルギーによりイオントラック内に架橋反応点が選択的に分布し、分子間架橋/重合反応といった不均一な反応を介してゲル化を誘起し、ナノワイヤとしてこれを単離できることをこれまで明らかにしてきた。今年度は、(1) 蛍光発光性を示すナノワイヤと金属ナノ粒子との相互作用、(2) クラスターイオンを代表とする粒子線と有機化合物との相互作用の可視化、のトピックについて検討を行った。(1)について、蒸着によりシリコン基板上に、粒径を50 nm程度に制御した銀ナノ粒子の集合薄膜を作成し、その上に低分子色素からなるナノワイヤを作成した。その結果、単純なシリコン基板上と比較し、銀ナノ粒子薄膜上では色素ナノワイヤの蛍光が10倍以上増強することが見出され、これが銀ナノ粒子の表面プラズモンによる励起光増強の結果であることが示唆された。(2)について、6.0 MeVのエネルギーを有するC60クラスターイオンを低分子材料薄膜への照射効果の膜厚依存性を調べた。その結果、膜厚を増やしても現像操作後に得られるナノワイヤ長は200 nm程度で飽和し、その位置で球状に広がったような特異なナノ構造体を与えた。この解釈として、C60+クラスターを構成する原子は入射直後に電離によって分離され固体中を進むにつれて徐々に平衡電荷へと近づくが、次第にエネルギーを失い失速し、最終的にクーロン爆発を起こし動径方向に広がりを持つ、という過程を推測することができた。その他の知見として、C60分子の真空蒸着により作成した薄膜に対して粒子線を照射し、その後に同様の加熱真空操作により未照射部位の昇華を試みたところ、適切な条件下において昇華現像に成功し、基板に直立したナノワイヤの様子を電子顕微鏡で捉えることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで進めて来た粒子線固相重合法に関する成果を複数の投稿論文にまとめることができた。新たな実験結果として、有機溶媒を用いない昇華過程を利用した現像手法の実演に成功し、低分子薄膜を出発とした機能性ナノワイヤの応用展開にさらなる可能性を見出すことができた。さらに、高エネルギーイオンの飛跡の可視化手法としての有用性についても検討した。特に、クラスターイオンの単一イオンとの差異について低分子化合物-イオンの相互作用(化学反応)を利用することで可視化したことは、本手法の新たな展開の芽を見出せたと考えている。
次年度は、金属ナノ粒子と色素ナノワイヤの複合化をさらに推進し、金属表面プラズモンを利用した高感度センシングシステムの開発を目指す。特に、ナノワイヤ表面を足場としてナノ粒子の成長が可能かどうかについて検討し、より制御されたナノワイヤ-ナノ粒子複合材料の構築を目指す。垂直配向性ナノワイヤについても、昇華性のある低分子π共役系化合物を中心に様々なものを対象とし、固相重合反応活性があるか調べ、望みの数密度で汎用的に機能性ナノワイヤアレイを作製できる方法論を構築することを目指していく。
すべて 2018 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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