研究課題
ニューロンは細胞体から樹状突起という線維構造を伸ばしている。樹状突起は上流の細胞からの情報を興奮性シナプス入力として受け取り、脱分極応答として細胞体に伝えている。複数の細胞からのシナプス入力は細胞体へ伝わる過程で統合される。この際、ニューロンが脱分極し発火閾値に達すると活動電位が発生し、情報は下流の細胞へと出力される。従来、樹状突起は周囲の細胞から受け取った情報を細胞体へ伝える以外の機能を有していないと考えられてきた。しかし近年、樹状突起はシナプス入力を非線形に加算し、ニューロンの活動動態を多様化している可能性が示唆された。これは樹状突起が積極的に情報演算を行っていることを意味している。ただし、こうした樹状突起に関する知見はシナプスを人工的に活性化させることで得られたものである。そのため、脳内で生じる自然なシナプス入力に対し、樹状突起がどのような情報処理を行っているのかについて不明な点が多い。そこで本研究は、樹状突起が自然なシナプス入力に対して行う情報処理機構に迫った。その結果、樹状突起は抑制性シナプス入力によって一部の興奮性シナプス入力のみを細胞体に伝えていることがわかった。また、抑制性シナプス入力の効果は、特定の同期シナプス入力だけを細胞体へ伝えるために働いていることも示唆された。ニューロンは複数の情報を受け取る一方で、その出力応答は選択的である。樹状突起は、受け取った情報を抑制性シナプス入力によってフィルタリングすることで、ニューロンの選択的な発火活動を実現していると考えられる。さらに、こうした樹状突起の情報選定機構の破綻がASDなどの疾患の原因である可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
樹状突起のデータについてはCell Reportsに論文としてまとめることができた。さらに疾患(ASD)モデルマウスについても、解析ができ、予想外の知見を得ることができた。この点については当初予定された計画よりも大幅に研究がすすんでいる。in vivo軸索イメージングについては光学系の開発が予定よりも一年遅れたが、その分、よい遺伝子改変マウスが入手でき、効率のよい実験系が立ち上った。
ripple中のスパインイメージングに挑戦する。実験系の構築はほぼ完了in vivo軸索イメージングの実験系が立ち上がったため、いよいよ観察実験に入る。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件)
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