前頭前野領野間の相互作用を検討するため、ウィスコンシンカード分類課題動物版(以下WCSTと略記する)遂行中のサルの前頭前野の複数の領野から電場電位の同時記録を行ってきた。今期は、記録に尾状核頭部を含めた。前帯状溝皮質、主溝領域、尾状核頭部の3領域は試行の初めの注視期(サンプル刺激が出る前、0.75秒間)と試行間隔期(2秒間)に15ヘルツ付近の低ベータ周波数帯の信号を増加させ、これらの周波数成分は3領域の間で同期していた。周波数成分の同期は、この時期に3領域の間で信号のやり取りが盛んに行われていることを示唆する。さらに、試行間隔における低ベータ周波数領域の周波数成分信号強度は、誤答後よりも正答後の試行間隔において強まっていた。正答後には次の試行へ向けて「作業記憶による行為選択モード」を強める必要がある。そこで、正答後の試行間隔における同期した周波数成分信号強度増加は、前帯状溝皮質、主溝領域、尾状核頭部が協調して「作業記憶による行為選択モード」との仮説を支持した。 また、特定の投射における情報の流れを選択的に阻害したときの行動への影響を直接に検討するため、ウィルスベクターによる遺伝子導入法を用いた投射特異的機能ブロック法の開発を進めてきた。今期はテスト系として左右半球の前頭葉背内側部(中心は8B野)間の交連投射を選び、ドキシサイクリン依存的なテトロドトキシン発現によりシナプス伝達がドキシサイクリン依存的に阻害されることを電気刺激により誘導される電場電位反応をEcoG電極で記録して検証するアッセイ法を開発した。誘導反応を安定に記録することができるようになった。
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