研究課題
本研究ではシナプス動態を個体レベルで可視化し、大脳皮質錐体細胞に形成される興奮性・抑制性シナプスについて、動態、分子組成、形態の関連性を明らかにする。発達時期に応じたシナプス動態の制御の役割を知るため、大脳皮質の発達に依存して、分子発現とシナプスへの分子集積がどのように変化するのかを解析する。また精神神経疾患の病態について精神神経疾患の病態モデル動物を活用したイメージング実験により検討する。平成27年度にはまず個体レベルでのシナプスの二光子顕微鏡による観察と電子顕微鏡や連続切片立体再構築法を組み合わせた実験を行うための条件検討を継続した。次に生後初期の大脳皮質や海馬においてシナプス密度が急激に増加し、その後なだらかな減少傾向へと向かう変化が生後の遅い時期に発現する分子により特異的に制御される可能性について検討した。発達後期に発現上昇を示す典型的な分子としてはCaMKIIαが知られているため、この分子のキナーゼ活性とシナプスの密度上昇の間の関連性を検討し、CaMKIIαのキナーゼ活性が失われると発達期のシナプス形成が過剰となることが明らかになった。このデータは回路成熟に伴ってCaMKIIαが増加することで活発なシナプス形成の終結が引き起こされる可能性を示唆した。
2: おおむね順調に進展している
本研究はシナプス動態を先端的なイメージング技術を活用して解明することを目標としており、その目標を達成するために、生後発達早期のシナプス動態の変化の生理的な意義を探索し、また発達過程でのシナプスへの分子集積の時間的な変化の解析を行う事を目標としている。またこれらのデータを活用し、シナプスの障害により発症すると考えられている、ASDを中心とする発達障害の病態についても解析する。現在までの研究で、コントロールのマウスと3種類の自閉症モデルマウスについて生後早期のシナプス動態を測定する実験を行い、共通のシナプスレベルでの表現型として、シナプス形成と除去の両方が亢進していることを見出した。また大脳皮質内の投射線維を受けるスパインと視床からの投射を受けるスパインを区別してその動態を測定する手法を開発し、これらの二種類のスパインの動態が全く異なる事、疾患モデルでの障害のされ方も異なる事を見出した。現在は特に生後発達早期にシナプス密度が急激な増加からゆるやかな減少傾向へと変化する際に鍵となる分子の同定を行い、CaMKIIαが成熟期のシナプス可塑性のみならずシナプス密度の抑制作用も併せ持つことを発見した。このような成果が得られつつあることから、現在までの研究の達成度は十分なものであると考える。
今後はさらに生後発達期のシナプス動態の制御機構を解明するために以下の実験を行う。(1)大脳皮質および海馬におけるスパインシナプスの発達制御機構大脳皮質および海馬におけるスパインシナプスの形成は、生後3週目までの急激な密度増加の時期とその後の緩徐な減少傾向の二つの時期に明確に区分される。このような動態のスイッチが起こる理由については未だ不明の点が多いが、前年度の研究によりCaMKIIαのキナーゼ活性がこのスパインシナプスの制御に関連している事が示された。リン酸化酵素の活性化の下流でどのようなシグナル機構が関与するのかについて本年度は検討を行う。(2)二光子顕微鏡によるin vivo imagingを用いたシナプス形成・成熟過程の解析前項で述べたシナプス動態の変化を発達依存的に制御する機構としては、CaMKIIα以外にもシナプス局所で分泌される分子が局所的にその安定性を制御している可能性がある。軸索から放出されるシナプス形成を負に制御する分子を我々は同定し、その発現を操作した結果としてin vivo imagingにおいてシナプスの密度や動態が大きく変化することを確認している。本年度はこのシナプス局所の分泌性因子の作用機構について更に追求する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 7件、 招待講演 9件) 備考 (1件)
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