研究課題/領域番号 |
26250019
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
澤本 和延 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90282350)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳 / ニューロン新生 / 細胞移動 / 再生 |
研究実績の概要 |
生後の脳において生まれるニューロンは、脳の恒常性維持・破綻や再生機構に関わっている。我々は、マウス・サル・魚を用いて、正常時と疾患による傷害後の再生過程におけるニューロン新生のメカニズムを明らかにしてきた。本研究では、新生ニューロンの移動制御機構の焦点を絞りその制御機構を解明することを目的としている。本年度は、これらの目的を達成するため、新生ニューロンが移動する際の足場との関係について、以下4項目の実験を実施した。 1.血管との関係:新生ニューロンが血管に沿った移動を制御する分子メカニズムの候補として、血管基底膜の主成分であるlamininなどの受容体であるintegrinβ1の役割を解析した。ノックアウトマウスにおいて新生ニューロンのマーカーを発現する細胞の分布などを比較したところ、野生型マウスに比べて傷害部への移動効率が低下していることが明らかになった。 2.放射状グリアとの関係:新生仔の脳傷害後に再生したニューロンが放射状グリア細胞の突起を足場にして移動するかどうかを調べるため、脳室下帯で産生される新生ニューロンをエレクトロポレーション法によって蛍光標識した。新生ニューロンが放射状グリア細胞に沿って移動する様子が観察された。 3.アストロサイトとの関係:移動する新生ニューロンは、アストロサイトの形態を変化させて移動経路を確保しながら移動する。ニューロンがアストロサイトに接触した際にRhoファミリーの低分子量Gタンパク質の活性が低下して細胞を変形させることを示唆する結果が得られた。 4.鎖状移動のメカニズム:ニューロンが移動する際に、隣の細胞を足場として相互作用しながら移動する「鎖状移動」と呼ばれる移動様式の制御において、Srcファミリーの非受容体型チロシンキナーゼが重要な働きをしていることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新生ニューロンの移動制御機構の焦点を絞り、移動のための足場、移動速度調節と停止、感覚刺激による定着・成熟のしくみを解明することを目的としている。 本年度の研究によって、これらのうち新生ニューロンが様々な足場を使って移動するメカニズムが明らかになりつつある。これらの研究を継続することによって、血管・放射状グリア・アストロサイト・隣接したニューロンという異なる足場について、その役割と移動をサポートするメカニズムが解明されることが期待できる。 脳梗塞手術やライブイメージングなど、技術を習熟し、十分な量のデータを取得するまで時間を要する実験もあるが、実験自体は概ね順調に進んでいる。応募書類において平成27年度以降の研究として記載した実験についても、研究材料の入手や実験技術の確認などを開始している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに明らかになった新生ニューロンと足場の関係について、次年度以降も継続して研究を完成させる。integrinβ1コンディショナルノックアウトマウス等を用いて、新生ニューロンがlamininに結合しながら移動するメカニズムを詳細に解析する。放射状グリアと新生ニューロンの関係については、両者を接着させる分子機構を研究するとともに、ライブイメージングや電子顕微鏡等(今年度購入したウルトラミクロトームを利用)の技術を使った解析を進める。アストロサイトとの関係については、ニューロンがアストロサイトの間を通り抜けて傷害部位へ到達するメカニズムを解析し、それを促進する方法を探る。さらに、鎖状移動に関与する可能性のある非受容体型チロシンキナーゼについて、ノックダウン等の方法により機能を詳細に解明する必要がある。
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