研究課題
ヒト精神疾患において疾患モデルマウスの確立は困難と考えられてきた。しかし、もともと精神疾患の診断は経験主義的な理論と患者の自覚症状の聞き取りによってカテゴリー化されてきたものであり、生物学的証拠に基づく理論は不十分である。最近5大精神疾患のゲノムワイドなデータより遺伝的要因については共有されるものが多いと報告され、精神疾患モデルの検証の必要性が問われている。本研究では精神疾患の生物学的解析基盤の情報を臨床研究へ提供することを目的として、複数の自閉症スペクトラムモデル(ASD)KO マウスについて社会性行動を含む発達障害関連の表現型を解析することを目的とした。NIMH(米国国立精神衛生研究所)によってRDoCが提唱され、これは神経生物学や遺伝学などの科学的知見に基づいて生まれた症状の研究領域基準である。若菜は日本マウスクリニックで行ってきた行動表現型バッテリーを神経生物学基盤に基づくものに再構築し、各行動解析手法がRDoCのどの研究領域基準に当てはまるか検討した。現在、C57BL/6系統を基準系統としてバッテリーを行うことはもちろんのこと、当方で開発したM174(Furuse et al 2010) をポジコンとして用いて検討を行っている。掛山はこのマウスを用いて認知的柔軟性が顕著に低下していることを明らかにした。古市は、独自に開発した自閉症モデルマウスCAPS2マウスでは生後小脳の発達と機能が異常となり、慢性ストレス負荷下のインスリン分泌応答に異常になることを明らかにした。一方、ヒトにおける臨床研究では山末が自閉スペクトラム症当事者において、表情や声色を活用した他者理解の困難、他者の対人的感情を推論する困難を定量的に評価し、その脳基盤として内側前頭前野や島皮質の活性不全を同定した。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者若菜は精神疾患の生物学的解析基盤の情報を臨床研究へ提供することを目的としたマウス発達障害関連表現型解析のバッテリーを構築し、基準系統やポジコン系統(M174 : Furuse et al 2010 )を使ってのデータを収得している。掛山は社会行動解析システムにとってこちらが開発したM174 を使って認知的柔軟性が顕著に低下していることを明らかにした。古市はあらたな自閉症候補遺伝子CAPS2のKOマウスでは生後小脳の発達と機能が異常になり、慢性ストレス負荷下のインスリン分泌応答に異常になることを明らかにした。山末は自閉スペクトラム症当事者において、表情や声色を活用した他者理解の困難、他者の対人的感情を推論する困難を定量的に評価し、その脳基盤として内側前頭前野や島皮質の活性不全を同定した。このように各分担者とも順調に研究が推移しているものと思われる。今後はこれらの結果を総合的に解釈、精神疾患において発達障害を中心としたマウス総合解析システムの構築を目指す。
これまで研究代表者若菜は、生物学的解析基盤の情報を臨床研究へ提供することを目的としてあらたな発達障害マウス総合解析システムの構築を行ってきた。本システムがヒト精神疾患の生物学的基盤を明らかにする有効性については、ヒト臨床研究の結果との関係性が示唆されている多くの発達障害モデルマウスについてこのシステムを検証することが必須である。さらに、あらたな社会行動解析システムによって生物学的基盤を強固に検証することが必要である(掛山)。また、古市らが開発したASDモデルマウスにおいても検証しそのメカニズムを明らかにして多くの成功例を上げていきたい。さらには山末の自閉スペクトラム症当事者の研究結果とのヒト臨床データとマウス総合解析システムで得られたデータとの関連性を検証していく。
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