研究課題
哺乳類の性染色体構成は、雌がXX、雄がXYである。雌は雄との遺伝子量補正のため、2本のX染色体のうち1本が不活性化されている。これまで、ES細胞などのin vitro分化系を用いて、不活性化に関する分子メカニズムの研究が為されてきたが、実際に個体レベルでX染色体不活性化がいつ、どのようにして成立していくのか、不活性化のタイミングや安定性が組織・器官によって異なるのか、不活性化という現象自体が生物個体の機能やヒト女性特有の疾患病態にどのように影響するのか、等については、その殆どが未知である。本研究では、申請者が独自に開発した、X染色体不活性化状態を可視化するXvisマウス系統を用いて、1)不活性化・再活性化プロセスの動態解析、2)胎児期、成体の各臓器における不活性化偏在パターン(遺伝モザイシズム)のマッピング、3)女性特有のX連鎖遺伝病態モデルマウスの作製と解析などを通じて、X染色体不活性化現象の個体レベルの生体機能への関わりを解析することを目的とする。2015年度は、胚発生時におけるX染色体不活性化状態の変動に関して、胚を構成する各組織における再活性化とランダム不活性化のタイミングをホールマウントRNA-FISH等の技術で詳細に解析した。その結果、胚体組織においては、受精後3.75日より、刷り込み型不活性化の消去が始まり、4.75日から5.0日の間で、再活性化がほぼ終了していた。また、同時期の一部の細胞では、ランダム不活性化が開始しており、再活性化の終了後、ほぼ遅滞なくランダム不活性化に移行するものと示唆された。この結果と、Xvisマウスの蛍光レポーター発現の観察結果を比較したところ、再活性化からランダム不活性化への移行については、RNA-FISHの結果とほぼ一致していることが明らかとなり、Xvisマウスのモデルとしての有用性が確認された。
2: おおむね順調に進展している
研究全体は、概ね計画通りに進展している。2015年度は、Xvisマウスの蛍光発現パターンと実際にX染色体不活性化に関与しているXist、Tsixという非翻訳性RNAの発現から明らかとなったX染色体不活性化状態の変動がほぼ一致していることが確かめられ、不活性化を可視化するモデルマウスとしての有効性の裏付けをとることに成功した。これまでに、Xvisマウスの各種臓器の3次元内部顕微鏡による観察を実施したが、さらに観察例を増やすために複数個体からのサンプリングを行った。また、X連鎖遺伝病のモデルとして、Rett症候群の原因遺伝子であるMeCP2遺伝子にCRISPR/Cas9技術によって、変異を導入するが、そのためのガイドRNAを複数設定し、実際にES細胞の目的遺伝子に変異を導入することに成功した。
計画全体は、概ね順調に進展して来ており、これまでにX染色体再活性化からランダム不活性化へ至るタイミングを決定できたので、H28年度は、ランダム不活性化成立直前、直後の細胞を選別し、成立前後の遺伝子発現やエピゲノム状態の変動の解析を行い、これまで知見に乏しいマウス胚での不活性化に伴う分子レベルの変動を捉えることを行う。また、3次元内部顕微鏡を用いて、不活性化の偏在パターンの起源と生物学的意義に関する解析を行う。具体的には、心臓等の主要臓器の3次元内部構造に関する画像データを取得し、臓器内におけるモザイクパターンを把握し、画像処理により、モザイクの偏在パターンを定量的に表現することを試みる。今後の研究推進に影響を与える要因として、H27年度中途に、研究分担者であった山梨大学医学部の久保田健夫教授が一身上の都合で退職された。したがって、久保田教授の担当であったX連鎖遺伝病であるRett症候群モデルマウスの解析については、当初の計画から変更を余儀なくされると考えられる(当初は、病態モデルマウスの行動解析や電気生理学的解析などを含めた詳細な表現型解析が予定されていた)。今後は、3次元内部構造解析と表現型との関連付けから、責任脳領域を同定することを試みる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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