研究課題
哺乳類は、性染色体であるXとYの構成の違いによって雌雄が決定される。2つのX染色体を持つ雌ではXYである雄との遺伝子量補正のため、2本のX染色体のうち一方が不活性化される。この不活性化現象は、これまで、ES細胞の分化系などを使い、その分子機構解明の研究が精力的に行われてきたが、個体において実際に不活性化がいつ、どのようにして成立するのか、不活性化の組織・器官特異性や安定性、不活性化現象が生物個体の機能やヒト女性特有の病態にどのように影響するかについての研究は非常に少ない。本研究では、申請者が独自に開発した、X染色体不活性化を可視化するXvisマウス系統を用いて、1)不活性化・再活性化過程のイメージング解析、2)胎児期、成体の各臓器における不活性化偏在パターン(遺伝モザイシズム)のマッピング、3)女性特有のX連鎖遺伝病態モデルマウスの作製と解析などを通じて、X染色体不活性化現象の生体機能への関わりを包括的に解析することを目的とする。2016年度は、胚体でのX染色体不活性化の状態を追跡するために、不活性化に重要な働きをする非翻訳性RNAであるXistとその逆鎖から転写されるTsix RNAの発現を、独自に開発したWhole-mount 3D RNA-FISH法を用いて解析し、刷り込み型不活性化の消去のタイミング、ランダム型不活性化の開始時期を初めて特定した。さらに、この不活性化の過程をin vitroで再現する効率の良い幹細胞分化系を開発し、この過程における遺伝子発現の変動、エピゲノム状態の変化について解析を行った。また、Xvisマウスの新しい系統の導入を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究全体は、概ね計画どおりに進展しており、3次元内部顕微鏡を用いた個体レベルの画像取得、画像処理、画像解析プログラムに関する検討を行った。また、概要に述べたように、胚体におけるX染色体不活性化状態の変化パターンの解析や、新しい幹細胞分化系を確立し、これを不活性化現象の解析に適用しシングルセルレベルの遺伝子発現解析などを行った。また、胚体組織などから細胞を採取し、シングルセルレベルの発現解析を行うための条件検討を行った。Xvisマウスの組織、器官を構成する細胞に対してシングルセル解析を行えば、遺伝的モザイシズムの細胞機能に対する影響を調べることが可能になると思われる。これらの知見を総合することにより、X染色体不活性化現象の包括的理解に結びつけることができると考える。
3次元内部顕微鏡を用いた解析を引き続き行なう。エピジェネティック制御は加齢とともに異常が生じる可能性があるため、一年以上の老齢Xvisマウスにおける不活性化モザイクパターンに介する解析も行う。さらに、異なる遺伝子座にレポーター遺伝子が挿入された新規不活性化可視化マウス系統の解析も行い、得られた知見の再現性、普遍性の確認を行う。上記のように、幹細胞分化系や、個体からの組織、器官を構成する細胞を単離し、シングルセルレベルの発現解析を行い、異なるバックグラウンドを持つX染色体が不活性化された場合、その細胞における遺伝子発現プロファイルにどのような影響が表れるかを追究する。X連鎖遺伝病モデルに関しては、Rett症候群以外のモデル作製についても検討を続ける。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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