研究課題
本研究では、正常上皮細胞が変異細胞を排除する現象に関与する分子群を、定量的質量分析法SILACを中心とした生化学的スクリーニングとマイクロアレイ解析を用いて網羅的に同定することを大きな目的としている。特に、正常上皮細胞側に生じる細胞非自律的なプロセスに関与する分子の同定によって、我々が提唱する免疫細胞を介さない上皮細胞が有する抗腫瘍能「EDAC」を制御する分子メカニズムの解明を目指している。SILACによる解析によって、液性因子ADAM-DEC1の発現が、変異細胞と隣接する正常細胞において亢進し、その発現亢進が変異細胞の上皮細胞層から管腔側への排除に重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらにADAMDEC1のプロテアーゼ活性がこの分子機構に関与していないこと、ADAMDECが変異細胞に接する正常細胞に生じる細胞骨格タンパク質Filaminの集積の上流で機能していることを見出した。これらの知見については現在論文投稿準備中であるが、これまでがん研究のブラックボックスであった発がんの超初期段階で生じる現象に風穴を空けるものであり、当研究分野に大きなインパクトを与えることが期待できる。それに加えて、変異細胞に隣接する正常細胞においてCOX-2の発現が亢進していることを明らかにした。さらに、COX-2のノックダウンや阻害剤であるNSAIDの投与によって、変異細胞の上皮層からの逸脱が亢進することが明らかになった。一方、COX-2が産生するPGE2を加えると変異細胞の逸脱は抑制された。このデータは、COX-2が誘起する炎症様の反応が細胞競合を負に制御していることを示している。現在COX-2の細胞競合におけるさらなる機能解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
変異細胞の境界において正常上皮細胞で発現が亢進している複数の分子を同定することに成功した。これは、発がんの超初期段階において、正常上皮細胞が有する抗腫瘍能に関与している可能性を有しており、「正常上皮細胞によるがん細胞の排除を促進する」という全く新規の作用メカニズムを標的としたがん治療薬の開発につながりうる知見である。さらに、変異細胞に隣接する正常細胞で亢進するCOX-2の機能解析から、細胞競合を正に制御する因子だけではなく、負の制御因子の存在が明らかになった。これは、細胞競合研究分野に新たな視点を与える重要な研究成果である。このように、現在まで、当初の計画通りに研究は順調に進展してきた。
今後は、変異細胞との境界において正常上皮細胞で発現や活性が亢進している分子のスクリーニングを続けるとともに、これまでに見出したADAM-DECやCOX-2が正常上皮細胞と変異細胞間に生じる細胞競合現象をどのように制御しているのか、その機能について、我々が独自に確立した細胞競合マウスモデルによる解析など、網羅的に探索していく。これらの研究成果をさらに発展させることによって、世界初のがんの予防的治療法の開発を目指していく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
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