研究課題
今年度はDnmt1がどのようなヒストンH3分子のユビキチンん化構造を認識するのか?また外的刺激がこの修飾をどのように制御するのかについて詳細に検討した。その結果、Dnmt1はヒストンH3分子の2つのタンデムなモノユビキチン化を認識してクロマチンに結合することが分かった。また興味深いことに、Dnmt1は脱ユビキチン化酵素Usp7と安定的な複合体を形成しており、Usp7によるヒストンH3分子の脱ユビキチン化反応がDnmt1によるヘミメチル化DNAからフルメチル化DNAへの変換に必須の機能を果たしていることが分かった。さらに、このUsp7によるヒストンH3分子の脱メチル化は2つのタンデムなユビキチン化の片方のみに誘導されることも分かった。これらの結果は、ヒストンH3分子のユビキチン化されるリジン残基のアセチル化、メチル化制御がDNAメチル化程度の変動に重要な役割を果たしていることを示唆しており、現在外的刺激がいかなる分子機構でヒストンH3分子のユビキチン化部位修飾を制御しているか解析中である。一方、DNA低メチル化がどのようにしてゲノム不安定化を惹起するのかについては、DNA低メチル化がDNA複製起点からのDNA複製開始異常をきたすのではないかとの仮説から、Dnmt1条件的欠損細胞を用いてDNA複製変化の詳細な解析をMoleculr Combing法を用いて解析した。その結果、DNA低メチル化はDNA複製起点からの複製開始の頻度を高め、複製フォークの進行を遅くすることが分かった。またDNA複製起点の時空的制御について、S期早期での後期複製起点からの複製開始パターンが観察されるなど、DNA低メチル化がDNA複製開始制御異常を誘導していることが分かった。今後この制御異常がどのようにゲノム不安定性を惹起するのかについて解析を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度までの研究において、Dnmt1がどのようなヒストンH3分子のユビキチンん化構造を認識するのか?また外的刺激がこの修飾をどのように制御するのかについて、Dnmt1はヒストンH3分子の2つのタンデムなモノユビキチン化を認識してクロマチンに結合すること、またDnmt1は脱ユビキチン化酵素Usp7と安定的な複合体を形成しており、Usp7によるヒストンH3分子の脱ユビキチン化反応がDnmt1によるヘミメチル化DNAからフルメチル化DNAへの変換に必須の機能を果たしていることを明らかにしている。2つのタンデムなモノユビキチン化の認識はこれまで知られているユビキチンシグナルにおいて全く報告のない新規なものであり、今後の発展によりこれまで未知の新たなユビキチン化シグナル制御機構の存在が明らかになると思われ、この点において予想以上の発展があったと評価できる。またこのUsp7によるヒストンH3分子の脱メチル化は2つのタンデムなユビキチン化の片方のみに誘導されるという結果は、DNAメチル化機構の構造学的知見に新たな情報をもたらすもので、今後の展開に期待できる。一方、DNA低メチル化がDNA複製開始制御異常を誘導しているという知見も、世界初の成果であり、DNAメチル化制御によるゲノム情報制御のみならず、DNA複製制御の基本分子機構の解明に大きな貢献を果たすと思われる。従って、これらの成果から、本研究はおおむね順調、あるいは期待以上の成果が出ていると評価した。
現在までの達成度の理由の項目でも述べたが、本研究はDNAメチル化レベルの制御機構と、その異常に伴うゲノム不安定惹起に全く新たな機構の存在を明らかにしており、次年度以降の飛躍的発展を期待している。Dnmt1による2つのタンデムモノユビキチンの認識機構については、構造解析を専門とする研究者との共同研究が必要となるが、これについては既に早稲田大学胡桃坂教授、および横浜市立大学有田先生との密接な議論を重ねており、順調な研究進展が予想される。一方、DNA低メチル化に伴うゲノム不安定性惹起機構、とりわけDNA複製開始制御機構については、フランスキュリー研究所Dr. Debatisseとの共同研究が進んでおり、こちらにも順調な研究進捗が期待できる。
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