研究実績の概要 |
本研究では以下に示す(1),(2)の実験を実施した。 (1) HB-EGFが示す増殖抑制作用の解析 HB-EGFはcardiac cushionの内皮細胞で発現し、内皮細胞から分化転換した間質細胞に働いてその増殖を抑制する。間質細胞にはEGFR/EGFRホモダイマーとEGFR/ErbB4ヘテロダイマーが存在するにもかかわらず、EGFR/ErbB4ヘテロダイマーだけを選択的に活性化していると考えられる。この増殖抑制機構を明らかにするために、EGFR/ErbB4ヘテロダイマーの下流で流れる因子の解析、およびこれまでに報告されているErbB4のnon-canonical pathwayについて検討し、HB-EGFはEGFR/ErbB4ヘテロダイマーを介して細胞増殖抑制機構を発揮していることを明らかにした。 (2)HB-EGFによる発がん・悪性化とマイコプラズマ感染との因果関係の解明 マイコプラズマ感染はToll様受容体を介したNF-κBの活性化を誘導することが知られている。またHB-EGFはNF-κBの標的遺伝子の一つとして知られている。これらのことから、HB-EGFによる発がん・悪性化とマイコプラズマ感染に因果関係があると考えられる。すなわち、1)マイコプラズマが上皮組織に感染し、2)その感染が引き金となってTNF-αが誘導され、3)発現したTNF-αがNF-κB経路を活性化し、4)それによって標的遺伝子であるHB-EGFの発現を亢進させ、5)誘導されたHB-EGFがオートクライン、パラクラインによって細胞増殖や運動性を亢進させることでがんの発症・悪性化に寄与する、というメカニズムである。上記の作業仮説をヒト卵巣癌由来培養細胞を用いて解析を進め、マイコプラズマ感染によってTNF-αが誘導され、TNF-αがHB-EGFを誘導することを明らかにした。また、マイコプラズマ感染細胞と非感染細胞の軟寒天培地上での増殖性や、ヌードマウス皮下に移植したときの腫瘍形成速度を計測し、マイコプラズマ感染によるHB-EGFの発現上昇が癌化に寄与していることを明らかにした。
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