本研究は、癌増殖と悪性化におけるHB-EGFの役割と分子機構をさらに深く解析し、HB-EGFを標的とする効果的な治療薬・治療法の開拓を目指すものである。平成27年度は、HB-EGFが示す増殖抑制作用の解析に特に注力して以下の研究を実施した。 正常組織においてHB-EGFは増殖促進よりも増殖抑制あるいはアポトーシスからの回避に働いている。一方癌組織では極めて強い増殖促進効果や浸潤・転移促進作用を示す。このようなHB-EGFの二面性を決定する因子を発現クローニング法により明らかにすることを目指した。平成26年度の研究によって、HB-EGFによる増殖抑制作用にはErbB4の作用が重要であることが動物モデルで明らかにされたので、がん細胞にErbB4を発現させるモデルシステムの構築を行った。ErbB4の発現細胞は、当初の予定に反してErbB4の発現が不安定であり、発現系の再検討を行った。そのため当初計画よりは進行が遅れ、研究経費の繰り越し申請を行い平成28年度も引き続きこの問題解決を進めた。その結果、誘導発現系を用いて、安定的にErbB4を保持し、発現時には増殖抑制を示す安定株の樹立に成功した。この安定株を用いて、HB-EGF依存的な増殖抑制に関わる因子を網羅的に明らかにするための準備を行った。また、癌細胞でのErbB4の発現状況やEGFR/ErbB4の下流でHB-EGF誘導性増殖抑制に対する解除因子が発現している可能性を検討した。 これまでに、1)マイコプラズマ感染によってHB-EGFが高発現することを見いだし、HB-EGFによる発がん・悪性化とマイコプラズマ感染との因果関係の解明を行ってきた。今年度、マイコプラズマ感染がHB-EGFの発現誘導するメカニズムとして、マイコプラズマ感染とTNF-αの発現の因果関係を臨床材料をもとに検討した。
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