本研究課題は癌増殖と悪性化における細胞増殖因子HB-EGFの役割と分子機構を解析し、HB-EGFを標的とする効果的な治療薬・治療法の開拓を目指すものである。 平成28年度は以下の研究を実施した: (1) HB-EGFが示す増殖抑制作用の解析:正常組織においてHB-EGFは増殖促進よりも増殖抑制あるいはアポトーシスからの回避に働いている。一方癌組織では極めて強い増殖促進効果や浸潤・転移促進作用を示す。このようなHB-EGFの二面性を決定する因子を同定し、HB-EGF依存的な増殖抑制に関わる因子を網羅的に明らかにすることを目標に、研究を進めた。これまでの研究によって、HB-EGFによる増殖抑制作用にはErbB4の作用が重要であることが明らかにされたので、癌細胞でのErbB4の発現状況やEGFR/ErbB4の下流で発現するHB-EGF誘導性増殖抑制に対する解除因子の解析を進めたが、システムの構築に予想以上の時間を費やし、28年度中に確定的な結論を得ることはできなかった。 (2) HB-EGFによる発がん・悪性化とマイコプラズマ感染との因果関係の解明:これまでに、マイコプラズマ感染によってHB-EGFが高発現することを見いだしてきた。マイコプラズマ感染がHB-EGFの発現誘導するメカニズムを明らかにするために、卵巣癌細胞における種々の炎症性サイトカインの発現を調べ、TNF-αの発現とHB-EG発現に相関関係があることを明らかにした。また、卵巣癌細胞株以外に、乳癌細胞や胃癌細胞でもマイコプラズマ感染、IL-1β・TNF-α刺激によってHB-EGFの発現亢進が誘導されることを確認した。さらに、マイコプラズマ感染との関連が示唆されている胃がんでも卵巣癌と同様の解析を行い、マイコプラズマ感染とこれらの癌の因果関係解明に着手した。
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