研究課題
多細胞生物の発生・分化の過程は、様々な細胞種における遺伝子発現プロファイルの経時的な変化として捉えることができる。発生・分化段階特異的な遺伝子群が時間的・空間的に正しく発現するためには、クロマチンの構造変換によるエピジェネティック制御系が重要な役割を果たしている。中でもヒストンのテール部分の共有結合修飾は、エピジェネティック制御の中心的な役割を担っている。ほ乳類の性分化過程におけるエピジェネティック制御系の役割については不明な点が多くため、これを解明することを目的として研究を進めた。申請者は、これまでにヒストン脱メチル化酵素であるJmjd1a が、XY マウスの胎児期性腺において性決定遺伝子であるSry(Sex-determining region Y)のH3K9 メチル化を外すことを明らかにしている。H3K9のメチル化は、発現が抑制されたクロマチン(ヘテロクロマチン)の代表的なエピジェネティックマークである。Jmjd1aはSry遺伝子座のヘテロクロマチン化を防ぎ、転写可能な状態にすると考えられる。その一方で、Sry遺伝子座のH3K9のメチル化を触媒する酵素は不明であった。申請者の過去の研究により、G9a/GLP複合体は染色体の広範な部分のH3K9メチル化に寄与することを明らかにしている。GLPがSry遺伝子座のH3K9メチル化を触媒しているという仮説を検証するため、Jmjd1a欠損による性転換の表現型が、GLP欠損でどのように変化するのかを、主に遺伝学的な解析によって検討した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の計画に掲げた「性腺機能における抑制的エピゲノムの役割」に関する研究で一定の成果が得られている。具体的には以下のとおりである。1)Jmjd1a欠損によるXY雄が雌へ性転換する表現型が、GLPの欠損でレスキューされるかどうかを調べた。Jmjd1a欠損でGLPのヘテロ欠損を導入したXY個体では、雄の性腺体細胞マーカーであるSox9の発現が亢進し、雌の体細胞のマーカーであるFoxl2の発現は逆に減弱していた。この結果は、予想した通りにG9a/GLP複合体がSry遺伝子座のH3K9のメチル化を触媒しているという仮説に矛盾しないものであった。2)H3K9メチル化酵素であるEsetを雄性生殖腺体細胞であるセルトリ細胞で条件的に欠損するマウスを作製した。Eset欠損の雄マウスにおいて、精巣の矮小化が観察された。さらに詳細な解析を行った結果、当該マウス雄において、未分化な生殖細胞の減少が観察された。
1)GLPがSry遺伝子座のH3K9 メチル化を触媒しているのかどうかについて、さらに詳細に検討を行う。具体的には、以下の解析を進める。Jmjd1aホモ欠損変異へGLPヘテロ変異を導入することでSryの発現がレスキューされるかどうかについて明らかにする。同じ変異の導入でSry遺伝子座のH3K9のメチル化のレベルは低下するのかどうかについて明らかにする。2)Jmjd1aのアイソザイムであるJmjd1bがJmjd1aの機能を補っている可能性について調べる。具体的には、Jmjd1aホモ欠損変異へJmjd1bヘテロ変異を導入することでXY個体が性転換する割合が亢進するかどうについて明らかにする。3)セルトリ細胞特異的にEsetを欠損させたマウスの表現型をさらに解析する。具体的には以下の解析を進める。セルトリ細胞において、Esetの欠損で発現が変化する遺伝子を同定する。さらにこの遺伝子のエピゲノム状態を解析し、Esetがどのように発現調節に関わっているのかを明らかにする。また、生殖細胞の減少とセルトリ細胞の機能殿関係を明らかにする。
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Mol. Cell. Biol.
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