研究課題/領域番号 |
26250037
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
立花 誠 徳島大学, 疾患酵素学研究センター, 教授 (80303915)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン / メチル化 / 性決定 |
研究実績の概要 |
ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化修飾は、遺伝子発現が抑制されたクロマチンのエピジェネティックマークである。以前私はH3K9を脱メチル化する酵素の1つであるJmjd1aのノックアウトマウスを作製したところ、性染色体がXYであるにもかかわらず雌化する個体が出現することを見いだした。さらに、Jmjd1a-KOマウス胎仔の生殖線では、ほ乳類性決定遺伝子であるSex-determining region Y(Sry)の発現が低下しており、これが性転換の引き金であることを明らかにした(Kuroki et al, Science 2013)。Jmjd1aを欠損するとH3K9メチル化が亢進し、Sryの転写が抑制されることから、Jmjd1aの機能に拮抗するH3K9メチル化酵素が存在するはずである。この点を踏まえ、本研究課題ではJmjd1aによるH3K9メチル化に拮抗するH3K9メチル化酵素の同定を試みた。 H3K9メチル化酵素のうち、G9a/GLP複合体が染色体の広範な領域のメチル化に寄与するドミナントな酵素であることが、私の過去の研究によって明らかになっている。このことからG9a/GLP複合体がJmjd1aに拮抗して作用するH3K9メチル化Writerの第一の候補として考えられた。GlpとJmjd1aの遺伝的相互作用を調べるため、交配によって双方の欠損アリルを有するマウスを作製した。Glpホモ欠損マウスは胎生致死であるため、Glpへテロ欠損アリルをJmjd1a-KO遺伝子背景に導入したマウス(Jmjd1aΔ/Δ; Glp+/Δ)を作製し、その表現型を解析した。Jmjd1aを欠損したXYマウス中の、およそ7割の個体で性分化の異常が観察された。これに対し、Jmjd1aをホモで欠損し、かつGLPをヘテロで欠損したXYマウスは、全て雄への性分化が正しく進行していた(n=7)。G9a/GLP複合体は、Jmjd1a欠損による雄から雌への性転換に抑制的に働くこと、且つその作用点は性決定遺伝子Sryの転写調節であることから、G9a/GLP複合体がSry遺伝子座のH3K9メチル化酵素であることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Jmjd1aに拮抗するH3K9メチル化酵素の同定に関する研究は、予想以上に明確な結果を得ることができた。研究計画当初は、G9aあるいはGLPのホモ欠損変異を導入しないことには、Jmjd1a欠損による性転換の表現型をレスキューするかどうかの判定が困難である、と予想されたからである。この予想に反し、GLPのヘテロ欠損を導入したJmjd1a欠損個体は、得られた7例が全て雄に分化していた。また、GLPのタンパク量の半減はH3K9の低メチル化をもたらすことを明らかにすることができた。これらの研究結果は、実際にG9a/GLP複合体が極めて効率的にJmjd1aによるH3K9の脱メチル化に相対する機能を有していることを示すものであった。
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今後の研究の推進方策 |
ヒストン修飾によるエピジェネティックな遺伝子発現制御は、修飾酵素(Writer)、脱修飾酵素(Eraser)、修飾読み取り分子(Reader)の3者の協調作用によって成立する。平成27年度までの研究成果は、マウスの性決定(=性決定遺伝子の活性化)に寄与するH3K9メチル化Eraser、H3K9メチル化Writerの同定に大きな進展をもたらした。すなわち、性決定H3K9メチル化エピゲノムのEraserはJmjd1aとJmjd1bであり、H3K9メチル化WriterはG9a/GLP複合体であることを突き止めることができた。対し、「どのようなReaderがマウス性決定に関わるH3K9メチル化に機能してるのか?」、この問いに対する答えは残された課題である。平成28年度以降は、この課題を中心に取り組む。平成27年度より新規の助教と新器のテクニカルスタッフを雇用することができたため、新たにマウス発生工学の技術を導入し、残された課題に取り組む予定である。
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