研究課題
転写複合体(転写ファクトリー)という概念は、英国のCookらによって1970年代に提唱されたが、その実体については明らかになっていない点が多い。酵母では2012年にKageyらによってMediator complexという巨大な複合装置が報告されており、我々も対象とする哺乳動物において、転写複合体の存在を示唆する“転写の波”を報告(和田&大田ら、PNAS, 2009, Science, Editor’s choice, 2009)し、実際、転写活性に基づいて同様の複合体の候補蛋白の一部を同定したり、刺激に応じて同時に転写促進するだけでなく、miRNAのホスト遺伝子とターゲット遺伝子を含むファクトリーの存在を報告(Papantonis & Kohroら、EMBO J, 2012)するなど、その実体の解明を目指してきた。その結果、転写ファクトリーは複数の遺伝子群を同時に転写するため、クロマチン相互作用を引き起こすこと、またそれによって転写サイクルにおけるクロマチン構造が大きく変動することが明らかになりつつある。そこで、本研究では、ヒト細胞の転写複合体の本体を明らかにする為、活性型RNAポリメレースII(Pol II)抗体を用いた網羅的クロマチン相互作用解析によって明らかになった相互作用点に特異的に結合する複合体の同定とその機能解析を行う事を目的としている。
2: おおむね順調に進展している
活性型RNAポリメレースII(Pol II)抗体を用いた網羅的クロマチン相互作用解析(Chromatin Interaction Analysis using Paired-End Tag sequencing; ChIA-PET)の結果と、ヒストン修飾などのエピゲノム情報の結果は統合的に解析を行ったところ、無刺激状態では内皮細胞機能の発揮に必要な遺伝子を含む領域に於いてエンハンサー、プロモーター間での相互作用が強く生じているものの、炎症刺激によってこれらが解除され、サイトカインや接着因子遺伝子群を含むゲノム領域に於いて、クロマチン構造変化が刺激後極めて短時間で生じていることが明らかとなった。また、この解析を一層高精度に行うため一層高精度の活性型Pol II抗体を樹立した。またChIA-PETによって予測され、3C, 3D-FISHによって確認されたクロマチン相互作用点に結合乃至は近接していることが予測される転写複合体をiChIP・enChIP法によって同定するため、当該ゲノム上へのタグ挿入を行っている。
本研究課題においては、転写複合体を介したクロマチン相互作用解析を行った後、転写複合体の構成要素を免疫沈降産物のプロテオーム解析によって同定すること、さらに転写サイクルの各ステップにおける転写ファクトリーの挙動を詳細に観察することを当初目的として掲げた。しかしながら、複合体同定に当たって重要な役割を果たす活性型RNAポリメレースII抗体の活性が低下したため、報告書作成時点で再免疫、再スクリーニングを実施しており、抗体使用再開が今年度後半にいたる可能性がある。また、活性型RNAポリメレースII抗体による複合体解析では、クロマチン相互作用に直接関与していないコンポーネントも混入する可能性がある。そこで、本研究課題蛋白解析部分のバックアッププランとして、転写サイクル領域の他の研究チームと協力し、相互作用の起点となるゲノム上の特定領域に結合する手法の導入する予定である。これによって本研究課題において、転写サイクルにおける複合体を介したクロマチン構造変化とこれを担う複合体の同定を目指す。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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