研究実績の概要 |
本年度は、QβウイルスRNA複製酵素と宿主由来の翻訳伸長因子EF-Tu、EF-Tsおよびリボソーム蛋白質S1のN末端領域(OBフォールドを3つ含む)の4者複合体の結晶化、構造決定に成功した。この4者複合体は、QβウイルスのゲノムRNA複製(プラス鎖RNAからマイナス鎖RNA)を行うことができるとともに、ウイルスRNA(プラス鎖)の3'末端からおよそ1000ヌクレオチド上流に位置する特定の領域(M-サイト)配列に依存して忠実にRNA複製を開始できることも, 申請者が構築した試験管内ゲノムRNA複製システムを用いて確認した。一連の構造解析、生化学的な解析から、リボソーム蛋白質S1はN末端に位置する2つのOBフォールドを介して複合体中のβサブユニットへのみ結合し、3番目のOBフォールドは複合体とは相互作用せず、複合体表面から溶媒中につきでていることが明らかになった。さらに、この3番目のOBフォールドのM-サイトRNAへの結合能力とQβウイルスのゲノム複製に相関があることも明らかになった。これらのことからリボソーム蛋白質S1の可動性をもつN末端から3番目に位置するOBフォールドがQβウイルスゲノムRNAを特異的に認識することによって、ゲノムRNAをQβウイルスRNA複製酵素複合体へリクルートし、その結果、Qβウイルスのゲノム複製開始が効率よく進行することが示唆された。このことは、蛋白合成開始に関わるリボゾーム蛋白質が、RNA合成開始因子として機能することを示唆する。
|