極長鎖脂肪酸の産生及び代謝機構と代謝異常による病態の解明

2015 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 26251010
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 木原 章雄 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (50333620)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2018-03-31
• キーワード: 極長鎖脂肪酸 / 脂質 / 脂肪酸 / 小胞体 / 皮膚 / バリア / スフィンゴ脂質

研究実績の概要

極長鎖脂肪酸（炭素数20を超える脂肪酸）は，生体内量は少ないものの，主要な脂肪酸である長鎖脂肪酸では代替できない特異的な機能を持つ。極長鎖脂肪酸の中でも飽和あるいは一価不飽和のものは殆どがスフィンゴ脂質に組み込まれる。
表皮において炭素数30-36の極長鎖脂肪酸はスフィンゴ脂質骨格のセラミドに組み込まれたのち，オメガ水酸化を受けてアシルセラミドへと変換する。表皮は外界の物質に対するバリアを形成しており，アシルセラミドは表皮バリア機能に極めて重要である。そのため，アシルセラミド不全は皮膚疾患魚鱗癬を引き起こす。これまでアシルセラミドの産生経路，産生遺伝子については殆ど不明であったが，我々は本研究においてシトクロームP450の１つであるCYP4F22がアシルセラミド産生での極長鎖脂肪酸のオメガ水酸化を触媒する酵素であること，CYP4F22変異を持つ魚鱗癬患者ではアシルセラミド産生が不全となっていることを明らかにした。
セラミドの産生はセラミド合成酵素によって触媒される。これまで，セラミド産生の調節機構については殆ど不明であったが，我々は本研究においてセラミド合成酵素がリン酸化によって正に制御されていることを見出した。このうち，極長鎖セラミド産生を担うセラミド合成酵素CERS2が最も強い活性調節を受けていた。さらに我々は，極長鎖スフィンゴ脂質が脳の中でもミエリンにおいて多く存在することを明らかにした。
極長鎖脂肪酸産生に関わる3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素として，哺乳類には4種類のアイソザイム（HACD1-4）が存在する。このうち，HACD1は筋肉組織特異的に発現している。本研究において我々はHacd1ノックアウトマウスの解析を行い，Hacd1遺伝子欠損によって筋芽細胞の融合過程が損なわれ，筋肉の発達異常，筋力低下を伴うミオパチー症状を示すことを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

アシルセラミド産生におけるCYP4F22の詳細な解析を行い，国際的に評価の高い雑誌（Proc. Natl. Acad. Sci. USA）での公表に成功した。アシルセラミド産生の最後のステップであるオメガ水酸化極長鎖セラミドとリノール酸とのエステル結合形成に関してもPNPLA1が関わることを見出し，学術論文での公表に向けて準備を行っている。また，セラミド産生を触媒するセラミド合成酵素のリン酸化による制御機構，脳における極長鎖セラミドの分布についても解明することに成功し，論文として公表した。さらに，Hacd1ノックアウトマウスの解析を行い，ミオパチー発症の分子メカニズムを明らかにした。ヒト培養細胞を用いたHACD遺伝子欠損は，各HACDのシングル欠損細胞と最も活性が高いHACD1とHACD2の二重欠損細胞の作成が完了した。極長鎖脂肪酸の他の組織での役割解明については継続して探索を行っているが，脳ミエリンにおける2-ヒドロキシ極長鎖スフィンゴ脂質（ガラクトシルセラミド）の神経機能における役割について手がかりを得ている。

今後の研究の推進方策

HACDの基質特異性の解析に関しては，作成した各HACDのシングル欠損細胞とHACD1 HACD2の二重欠損細胞の脂質組成の解析を行うことで明らかにする。アシルセラミド産生の最後のステップを触媒するPNPLA1に関しては，魚鱗癬患者で見られる変異体の解析などの結果を加えて，論文としての公表を目指す。スフィンゴ脂質分解系で働く脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼALDH3A2のノックアウトマウス中では2-ヒドロキシ極長鎖ガラクトシルセラミドの減少により，神経機能が低下している可能性を見出しているので，行動解析などで詳細に解析する。

研究成果

• [国際共同研究] Inserm/University of Paris-Est/University of Burgundy(フランス)
  • 国名: フランス
  • 外国機関名: Inserm/University of Paris-Est/University of Burgundy
  • 他の機関数: 5
• [雑誌論文] Enzyme activities of the ceramide synthases CERS2-6 are regulated by phosphorylation in the C-terminal region (2016)
  • 著者名/発表者名: Sassa T, Hirayama T, Kihara A
  • 雑誌名: J. Biol. Chem. 巻: 291 ページ: 7477-7487
  • DOI: 10.1074/jbc.M115.695858
  • 査読あり / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Essential role of the cytochrome P450 CYP4F22 in the production of acylceramide, the key lipid for skin permeability barrier formation (2015)
  • 著者名/発表者名: Ohno Y, Nakamichi S, Ohkuni A, Kamiyama N, Naoe A, Tsujimura H, Yokose U, Sugiura K, Ishikawa J, Akiyama M, Kihara A
  • 雑誌名: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 巻: 112 ページ: 7707-7712
  • DOI: 10.1073/pnas.1503491112
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] HACD1, a regulator of membrane composition and fluidity, promotes myoblast fusion and skeletal muscle growth (2015)
  • 著者名/発表者名: Blondelle J, Ohno Y, Gache V, Guyot S, Storck S, Blanchard-Gutton N, Barthelemy I, Walmsley G, Rahier A, Gadin S, Maurer M, Guillaud L, Prola A, Ferry A, Aubin-Houzelstein G, Demarquoy J, Relaix F, Piercy RJ, Blot S, Kihara A, Tiret L, Pilot-Storck F
  • 雑誌名: J. Mol. Cell Biol. 巻: 7 ページ: 429-440
  • DOI: 10.1093/jmcb/mjv049
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Histological analyses by matrix-assisted laser desorption/ionization-imaging mass spectrometry reveal differential localization of sphingomyelin molecular species regulated by particular ceramide synthase in mouse brains (2015)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto M, Shimizu Y, Yoshioka T, Wakabayashi M, Tanaka Y, Higashino K, Numata Y, Sakai S, Kihara A, Igarashi Y, Kuge Y
  • 雑誌名: Biochim. Biophys. Acta 巻: 1851 ページ: 1554-1565
  • DOI: 10.1016/j.bbalip.2015.09.004
  • 査読あり
• [雑誌論文] スフィンゴ脂質の多様性と多機能性 (2015)
  • 著者名/発表者名: 木原章雄
  • 雑誌名: 実験医学 巻: 33 ページ: 50-56
• [雑誌論文] セラミドによる皮膚バリア形成 (2015)
  • 著者名/発表者名: 木原章雄
  • 雑誌名: 実験医学 巻: 33 ページ: 117-122
• [学会発表] Identification of genes involved in epidermal acylceramide production (2016)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: Gordon Research Conference on Glycolipid & Sphingolipid Biology
  • 発表場所: ルッカ（イタリア）
  • 年月日: 2016-03-06 – 2016-03-11
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Identification of the genes responsible for the synthesis of acylceramide, an essential ceramide class for skin barrier formation (2016)
  • 著者名/発表者名: Ohno Y, Kamiyama N, Nakamichi S, Kihara A
  • 学会等名: Gordon Research Conference on Glycolipid & Sphingolipid Biology
  • 発表場所: ルッカ（イタリア）
  • 年月日: 2016-03-06 – 2016-03-11
  • 国際学会
• [学会発表] 皮膚バリア形成に必須なアシルセラミドの産生にシトクロームP450ファミリータンパク質CYP4F22が関与する (2015)
  • 著者名/発表者名: 中路翔太, 大野祐介, 神山望, 木原章雄
  • 学会等名: 第88回日本生化学会大会／第38回日本分子生物学会年会合同大会
  • 発表場所: 神戸ポートピアホテル／神戸国際会議場／神戸国際展示場／神戸商工会議所（兵庫県神戸市）
  • 年月日: 2015-12-01 – 2015-12-04
• [学会発表] 魚鱗癬原因遺伝子産物PNPLA1はアシルセラミドの生合成に関与している (2015)
  • 著者名/発表者名: 神山望, 大野祐介, 中路翔太, 木原章雄
  • 学会等名: 第88回日本生化学会大会／第38回日本分子生物学会年会合同大会
  • 発表場所: 神戸ポートピアホテル／神戸国際会議場／神戸国際展示場／神戸商工会議所（兵庫県神戸市）
  • 年月日: 2015-12-01 – 2015-12-04
• [学会発表] 皮膚バリアを形成するアシルセラミドの合成経路解明 (2015)
  • 著者名/発表者名: 大野祐介, 木原章雄
  • 学会等名: 第88回日本生化学会大会／第38回日本分子生物学会年会合同大会
  • 発表場所: 神戸ポートピアホテル／神戸国際会議場／神戸国際展示場／神戸商工会議所（兵庫県神戸市）
  • 年月日: 2015-12-01 – 2015-12-04
  • 招待講演
• [学会発表] Metabolic pathways and genes involved in the synthesis and degradation of ceramides (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: 6th International Singapore Lipid Symposium
  • 発表場所: シンガポール（シンガポール）
  • 年月日: 2015-11-30 – 2015-12-02
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Biochemical analysis of the mutation for non-syndromic mental retardation in the trans-2-enoyl-CoA reductase TER gene involved in fatty acid elongation (2015)
  • 著者名/発表者名: Abe K, Wakashima T, Ohno Y, Kihara A
  • 学会等名: 6th International Singapore Lipid Symposium
  • 発表場所: シンガポール（シンガポール）
  • 年月日: 2015-11-30 – 2015-12-02
  • 国際学会
• [学会発表] 表皮におけるアシルセラミド産生の分子機構の解明 (2015)
  • 著者名/発表者名: 木原章雄
  • 学会等名: 第8回セラミド研究会学術集会
  • 発表場所: 北海道大学学術交流会館（北海道札幌市）
  • 年月日: 2015-10-29 – 2015-10-30
  • 招待講演
• [学会発表] リン酸化によるセラミド合成酵素の活性制御 (2015)
  • 著者名/発表者名: 佐々貴之, 平山泰祐, 木原章雄
  • 学会等名: 第8回セラミド研究会学術集会
  • 発表場所: 北海道大学学術交流会館（北海道札幌市）
  • 年月日: 2015-10-29 – 2015-10-30
• [学会発表] 分子イメージングを用いたスフィンゴミエリン分子種の組織内分布と制御機構の解明 (2015)
  • 著者名/発表者名: 杉本正志, 志水陽一, 若林雅人, 吉岡健, 東野賢一, 沼田義人, 酒井祥太, 木原章雄, 五十嵐靖之, 久下裕司
  • 学会等名: 第8回セラミド研究会学術集会
  • 発表場所: 北海道大学学術交流会館（北海道札幌市）
  • 年月日: 2015-10-29 – 2015-10-30
• [学会発表] Ceramide metabolism and skin barrier formation (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: niversitInternational Conference of Chung-Ang Uy on Life Science and Medical Reseach
  • 発表場所: ソウル（韓国）
  • 年月日: 2015-09-23 – 2015-09-23
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Metabolism, function in skin barrier formation, and pathology of ceramide (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: International Conference of the Korean Society for Molecular and Cellular Biology 2015
  • 発表場所: ソウル（韓国）
  • 年月日: 2015-09-21 – 2015-09-23
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Regulation of mammalian ceramide synthases by phosphorylation (2015)
  • 著者名/発表者名: Sassa T, Hirayama T, Kihara A
  • 学会等名: International Conference of the Korean Society for Molecular and Cellular Biology 2015
  • 発表場所: ソウル（韓国）
  • 年月日: 2015-09-21 – 2015-09-23
  • 国際学会
• [学会発表] A novel ultrahigh resolution imaging mass spectrometry visualizes distribution of sphingomyelin molecular species in the mouse tissue section (2015)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto M, Shimizu Y, Wakabayashi M, Yoshioka T, Tanaka Y, Higashino K, Numata Y, Sakai S, Kihara A, Igarashi Y, Kuge Y
  • 学会等名: 8th Annual Meeting for the World Molecular Imaging Congress 2015
  • 発表場所: ハワイ（アメリカ）
  • 年月日: 2015-09-02 – 2015-09-05
  • 国際学会
• [学会発表] 皮膚バリア形成に必須なアシルセラミドの合成に関与する遺伝子の同定 (2015)
  • 著者名/発表者名: 中路翔太, 大野祐介, 神山望, 木原章雄
  • 学会等名: 日本生化学会北海道支部第52回支部例会
  • 発表場所: 北海道大学フロンティア応用科学研究棟鈴木章ホール（北海道札幌市）
  • 年月日: 2015-07-17 – 2015-07-17
• [学会発表] Molecular imaging of tissue distribution of sphingomyelin species produced by particular ceramide synthase and sphingomyelin synthase (2015)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto M, Shimizu Y, Wakabayashi M, Yoshioka T, Tanaka Y, Higashino K, Numata Y, Sakai S, Kihara A, Kuge Y, Igarashi Y
  • 学会等名: 14th International Conference on Bioactive Lipids in Cancer, Inflammation and Related Diseases
  • 発表場所: ブダペスト（ハンガリー）
  • 年月日: 2015-07-12 – 2015-07-15
  • 国際学会
• [学会発表] Molecular mechanism generating acylceramide essential for skin barrier (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: 第10回スフィンゴテラピィ研究会
  • 発表場所: ホテルアローレ（石川県河北郡）
  • 年月日: 2015-06-16 – 2015-06-18
• [学会発表] 魚鱗癬の原因遺伝子産物PNPLA1はアシルセラミド合成に関与する (2015)
  • 著者名/発表者名: 大野祐介, 神山望, 木原章雄
  • 学会等名: 第57回日本脂質生化学会
  • 発表場所: 一橋大学一橋講堂（東京都千代田区）
  • 年月日: 2015-05-28 – 2015-05-29
• [学会発表] 超高質量分解能イメージング質量分析装置によるスフィンゴミエリン分子種の組織内分布可視化に関する検討 (2015)
  • 著者名/発表者名: 杉本正志, 志水陽一, 若林雅人, 吉岡健, 東野賢一, 沼田義人, 酒井祥太, 木原章雄, 五十嵐靖之, 久下裕司
  • 学会等名: 第10回分子イメージング学会
  • 発表場所: タワーホール船堀（東京都江戸川区）
  • 年月日: 2015-05-20 – 2015-05-21
• [学会発表] 皮膚バリアに重要なアシルセラミドの産生におけるCYP4F22の機能解析 (2015)
  • 著者名/発表者名: 中路翔太, 大野祐介, 神山望, 木原章雄
  • 学会等名: 日本薬学会北海道支部142回例会
  • 発表場所: 札幌コンベンションセンター（北海道札幌市）
  • 年月日: 2015-05-16 – 2015-05-17
• [学会発表] Molecular mechanism of the production of acylceramide, the key lipid for skin barrier formation (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 学会等名: 8th International Ceramide Conference (iCC8)/ 11th Sphingolipid Club (SLC) Joint Meeting
  • 発表場所: イズミール（トルコ）
  • 年月日: 2015-05-06 – 2015-05-10
  • 国際学会
• [図書] Bioactive lipid mediators: current reviews and protocols (2015)
  • 著者名/発表者名: Kihara A
  • 総ページ数: 426 (127-138)
  • 出版者: Springer Japan
• [備考] 北海道大学大学院薬学研究院生化学研究室
  • URL: http://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.html