研究課題
生体内では隣り合う同種あるいは異種の細胞が接着して組織・臓器を形成・維持している。同種の細胞同士はカドヘリンにより接着しているが、異種の細胞の接着機構は充分には理解されていない。研究代表者らは、新規の細胞間接着分子であるネクチンとこれをアクチン細胞骨格に連結するアファディンとからなる新しい細胞間接着装置を発見し、この細胞間接着装置が、精巣での精子細胞とセルトリ細胞との異種細胞間接着と精子細胞の分化を制御すること、内耳コルチ器の感覚上皮での有毛細胞と支持細胞の異種細胞間接着とこれらの細胞からなる市松様配列を制御することを解明した。しかし、生体内の多くの組織・臓器では精巣や感覚器とは異なるタイプやより複雑な異種細胞間接着が存在している。本研究では、これらの異種細胞間接着に果たすネクチンとその関連分子の機能と作用機構を解析し、組織・臓器の新たな形成・維持機構を解明することを目的としている。乳腺の乳管や乳管葉は管腔上皮細胞と筋上皮細胞によって構成されている。前年度は、管腔上皮細胞に発現するネクチン-4と、筋上皮細胞に発現するネクチン-1が新規の異種細胞間接着装置を形成し、この装置がプロラクチン受容体の活性化のプラットフォームとして機能していることを明らかにしていた。本年度は、その作用機構を解析し、ネクチン-4がプロラクチン受容体と結合し、本受容体の下流のシグナル伝達経路であるJAK2-STAT5系を増強してプロラクチンによる乳葉分化を促進していることを明らかにした。一方、嗅上皮においては、ネクチン-2とネクチン-3がそれぞれ嗅細胞と支持細胞に発現してトランスに相互作用し、α-カテニンを介してカドヘリンをリクルートすることによって、これらの細胞間接着と市松様配列を形成することを明らかにした
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、①管腔上皮細胞の基底側と筋上皮細胞の頭頂側で接着している組織として外分泌腺組織を、②単層で多数の異種細胞が配置されている組織として嗅上皮を、③上皮組織以外で複雑な異種細胞間接着をしている組織として神経組織をそれぞれ解析対象として、これらの組織での異種細胞間接着の機構と機能におけるネクチンとその関連分子の機能と作用機構の解析を進めてきた。①では、前年度、乳腺の管腔上皮細胞に発現するネクチン-4と、筋上皮細胞に発現するネクチン-1が新規の異種細胞間接着装置を形成し、この装置がプロラクチン受容体の活性化のプラットフォームとして機能していることを明らかにしていた。本年度は、その作用機構を解析し、ネクチン-4がプロラクチン受容体と結合し、本受容体の下流のシグナル伝達経路であるJAK2-STAT5系を増強してプロラクチンによる乳葉分化を促進していることを明らかにした。②では、嗅上皮において、嗅細胞と支持細胞による市松様配列の形成機構を解析した。各種遺伝子欠損マウスの嗅上皮を解析した結果、嗅細胞に発現するネクチン-2と支持細胞に発現するネクチン-3がトランスに相互作用してα-カテニンを介してカドヘリンをリクルートすることによって、これらの細胞間の異種細胞間接着と市松様配列を形成することを明らかにした。生体内の他の上皮組織においても、嗅上皮と同様の異種細胞間接着機構が機能している可能性が示唆された。③では、アストロサイトと神経細胞間の接着におけるネクチンの結合タンパク質の同定を進めている。本研究の成果は新しい疾患の診断法や治療法の開発にも繋がるものであり、医学・生物学研究に貢献する以外に、社会的にも今後の研究の発展が期待されると考えている。
上述した研究計画のうち、①に関してはネクチン-4によるプロラクチン受容体シグナリングの促進機構をより詳細に検討する。特に、サイトカイン抑制シグナル分子(SOCS)ファミリー分子とこのネクチン-4によるシグナル伝達の促進機構を解析する。さらに、乳腺同様の管腔構造をもつ耳下腺や顎下腺などの外分泌腺組織を中心に各種ネクチンノックアウトマウスの解析を進める。また、初代培養細胞を用いた三次元培養系による外分泌腺組織の再構築を試み、インビトロでの機能評価系の構築を図る。②に関しては、生体内の他の上皮組織において、嗅上皮と同様の異種細胞間の接着機構が関与しているかを明らかにし、その分子機構の解明を試みる。③に関しては、アストロサイトと神経細胞間の接着に存在する接着分子を同定し、ネクチンやネクチン様分子との関連を明らかにする。また、アストロサイトと神経細胞の共培養系を用いてアストロサイトのネクチンによる神経細胞の生存とシナプス維持の制御機構の解明の研究を推進する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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