研究課題
光線力学療法や低照度レーザー療法に付随する物理的侵襲性の問題を克服するために、発光基質との反応によって活性酸素を産生する発光増感タンパク質や長波長発光タンパク質の開発を行うことを目的とした。今年度は青色発光タンパク質eNLucと光増感分子を高効率にBRETが生じるコンストラクションの開発を試みた。光増感分子には小分子のエオシンやタンパク質性のSuperNovaを用いた。エオシンをeNLucに標識するために、eNLucの様々なアミノ酸をシステインに置換し、エオシン‐マレイミドを反応させた。SuperNovaはeNLucと鎖長の異なるフレキシブルなアミノ酸リンカーで融合した。これらの中から、eNLuc単体と標識あるいは融合コンストラクトとの発光強度の比較によって、最も高いBRET効率を示すコンストラクションを選択した。その後、発光基質投与に依存した活性酸素産生能を一重項酸素検出試薬ADPAを用いて評価した。これらのコンストラクトの内、特にエオシンで標識されたものは高いBRET効率を示したものの、一重項酸素の産生を確認することができなかった。そこで、当初の方針を転換し、基質投与に依存して個体深部で発生する光を、低照度光療法へ応用するための基盤技術開発を目指した。この目的のために、eNLucに様々な赤色蛍光タンパク質を様々な鎖長のアミノ酸リンカーで融合したリコンビナントタンパク質の発光スペクトルを計測してBRET効率並びに発光強度の大きなものをスクリーニングした。さらに、隣家アミノ酸の配列にランダム変異を導入し、より高いBRET効率を示す融合タンパク質をスクリーニングした。その結果、比較的高いBRET効率により赤色に発光する新規赤色発光タンパク質Red-eNanoLanternを作製することに成功した。
3: やや遅れている
当初、発光タンパク質から光増感分子あるいは光増感タンパク質へ、高効率なBRETを起こさせれば、基質投与依存的に活性酸素が有意に産生されると予想したが、実験結果はそのようにはならなかった。そこで研究の方針を転換し、発光タンパク質から赤色蛍光タンパク質への高効率BRETを起こすことで赤色に発光するタンパク質の開発にシフトした。BRET効率は発光タンパク質の発光スペクトルと赤色蛍光タンパク質の吸収スペクトルのオーバーラップが大きければ大きいほど良いが、それぞれのピーク波長が離れているため、様々な融合法を試行したにもかかわらず、中々BRET効率の高い融合タンパク質を得ることができなかった。その結果、実験の進捗が遅れてしまった。
上述の通り、試行錯誤の末に高光度に赤色発光する発光タンパク質Red-eNanoLanternを作製することに成功したため、これを用いたケミルミノジェネティクスへの応用を目指す。一つの応用例として、パーキンソン病の低照度光療法に対する有効性の検証を考えている。
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