研究課題/領域番号 |
26251021
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今本 尚子 独立行政法人理化学研究所, 今本細胞核機能研究室, 主任研究員 (20202145)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 核ー細胞質間輸送 / 熱ストレス / 分子シャペロンHsp70 / Hikeshi / 蛍光相互相関法 / グルコース飢餓 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
熱ストレスに応答した細胞の中では、Importinβファミリーが担う核ー細胞質間輸送経路の活性が低下する。それに対して、Hsp70を核に運ぶHikeshi輸送が駆動する。Hikeshi輸送は、これまで解析されてきたImportin輸送とは全く異なるメカニズムで働くと考えられる。また、進化的に広く保存されているHikeshiの機能は、どの生物種においても未だ明らかにされていない。 昨年度は、Hikeshi輸送の駆動メカニズムを理解する目的で、分子イメージング技術である蛍光相関分光法/蛍光相互相関分光法(FCS/FCCS)を利用し、正常時と熱ストレス時のHikeshiとHsp70の分子間相互作用を解析した。組換えタンパク質を使用した試験管内の解析から、HikeshiとHsp70の相互作用が温度に依存して劇的に上昇することがわかった。この熱依存的な結合活性は細胞抽出液や精製コシャペロンHsp110の存在とATPに依存することが確認できた。 進化的に保存したHikeshiの生理機能を明らかにするために、複数生物種のHikeshiホモログの解析に取り組んだ。分裂酵母Hikeshiホモログの細胞内局在と相互作用因子の解析から、酵母Hikeshiホモログが核膜孔複合体とHsp70の両方に結合することが分かった。ヒトHikeshiと同じ生化学的活性をもち保存されている。欠失株を用いた解析から、酵母Hikeshiホモログは熱ストレス耐性に寄与しないものの、グルコースの欠乏耐性に重要であることがわかった。また、Hikeshiホモログノックアウトマウスを作成した。その結果、 Hikeshi欠失マウスは生後48時間以内に死ぬことがわかった。ショウジョウバエのHikeshiホモログは胎生致死になることがデータベースに報告されるなど、様々な生物種でHikeshi欠失の影響が見られることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、これまで全く知られていなかった仕組みをもつHikeshi輸送のメカニズムと、進化的に保存されているHikeshiの生理機能を明らかにすることを目的としている。昨年度の、分子イメージング技術を利用した解析ではHsp70とHikeshiの相互作用が温度依存性を示すなど、Hikeshiのユニークな物性の一旦が明らかになった。Hikeshi分子は、分子シャペロンHsp70と核膜孔複合体の両方に結合するといった、酵母からヒトにかけて生化学的に保存した性質をもつことがわかった。そのHikeshi分子を欠失した酵母やマウスでは、いくつかの顕著な個体レベルの表現系がみられる。この分子の生理機能が進化的に保存されている可能性が考えられ、そのことを踏まえ、Hikeshi欠失がヒト細胞やマウス個体の死を誘引するメカニズムを明らかにしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ユニークな輸送メカニズムと物性を持つHikeshiが、細胞内Hsp70とどのように機能的に相互作用をするのかを明らかにすることは、Hikeshiの細胞機能を理解する上で重要である。また、Hikeshiを欠失した様々な生物種の表現系から見られるように、Hikeshiは進化的に保存された生命現象と深く関わると考えられる。熱ストレスとグルコース飢餓に共通する細胞内の生化学反応との関係でHikeshi機能を解析していくことが必要である。その情報から、マウスやヒト疾患など、公汎に及ぶHikeshiの生理機能を分子レベルで理解できると考える。
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