研究課題
HikeshiとHsp70の相互作用と、Hikeshiの生理機能を解析した。ヒトHikeshi結晶構造の解析からHikeshiは非対称ホモダイマーを形成することがわかった。そのダイマー形成は、変異タンパク質の解析からHsp70との結合に重要であることが示された。また、Hsp70の欠失変異を用いた解析から、Hsp70の全体構造がHikeshiとの結合に必要であることがわかった。このことから、Hikeshiが他のImportin運搬体のように“モチーフ配列”を認識するのではなく、Hsp70に特異的に働きかけることで機能すると考えられる。V54LHikeshi点変異は、アシュケナージ系ユダヤ人の創始者突然変異であることがわかり、神経遺伝性疾患を誘引する。この類似アミノ酸変異はHikeshiの構造を変化させると考えられる。試験管の中では、組換え変異タンパク質は、野生型タンパク質よりHsp70との結合が強く、また、Hsp70の輸送活性も強い。しかし、疾患患者の繊維芽細胞の中では、変異タンパク質の発現は弱く、熱ストレス時にHsp70が核局在しないことからHikeshiの活性が弱いことがわかった。過剰免疫反応による心膜炎が患者の死因であることから、Hikeshiの活性が炎症反応に関与することが推察された。また、Hikeshiノックアウトマウスから採取したMEF(mouse embryonic fibroblast)細胞は、酸化ストレスに感受性になることが示唆された。この結果は、前年度解析した分裂酵母Hikeshi破壊株の解析と矛盾しない。これらの結果からHikeshiは熱ストレス以外の刺激で活性化すると考えられる。前年度のFCCSの解析でHikeshiとHsp70が温度依存的に結合することがわかっているが、生体内では、温度以外の刺激でHikeshiがHsp70に結合すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ヒトHikeshiの結晶構造を解くことができ、論文として発表した。HikeshiとHsp70の相互作用の解析から、HikeshiがHsp70の単純なモチーフ構造を認識するのではないことが強く示唆された。Hikeshiが働きかける分子がHsp70に特異的である可能性は、Hikeshi機能を理解する上で一つの重要な情報である。ヒト遺伝子疾患で見つかった変異Hikeshiは、in vitroではHsp70との結合が野生型よりも強く、輸送活性も野生型より強いことがわかった。しかし、この変異Hikeshiは疾患細胞の中では発現が弱いため、細胞の中ではHikeshiの活性が見られない。その結果として炎症反応が亢進すると考えられる。また、Hikeshiノックアウト細胞は、酸化ストレスに感受性になる。Hikeshiノックアウトマウスを作成し、Hikeshi変異で誘発されるヒト疾患を解析した。その結果、熱ストレスを指標にして見つかったHikeshiが、生体内では熱ストレス以外の機能をもつことがわかった。Hikeshiは細胞の中ではHsp70に特異的に働きかけることが考えられるが、生体の中でHsp70が核に局在する現象が未だ見えてこない。これらの知見から、Hikeshiの機能発現を理解するためには、Hsp70の核内機能を調べる他に、HikeshiによってHsp70の分子活性が制御される可能性を調べることが必要と考える。このことは、今後の研究の方向性の指針として重要である。
我々は、Hikeshiを熱ストレス応答時にHsp70を核に運ぶ運搬体分子として同定した。Hikeshiをヒト癌細胞で欠損すると、細胞は熱ストレスダメージを回復しないために細胞が死ぬことがわかっていた。これまでの解析で、試験管内ではHikeshiは温度に依存してHsp70と結合することがわかった。しかし、Hikeshiは熱ストレス以外に、生体の生理現象に影響を及ぼすことが考えられる。HikeshiとHsp70の特徴ある相互作用からは、Hikeshiが働きかける分子がHsp70だけである可能性が考えられる。Hikeshiが何故これほど公汎な作用を及ぼすのかを理解するために、Hikeshiが熱以外のどの刺激でHsp70と結合するのかという点と、HikeshiがHsp70の細胞内局在変化を制御する以外の機能をもつのかといった点の2つについて、今後検討することが重要であると考える。
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