研究課題
2つの光化学系(光化学系I,光化学系II)の連携は光合成反応全体の効率を左右する重要な問題であり、そのコンセプトは“ステート遷移”と呼ばれ,その詳細をめぐっては多くの研究・議論が行われてきた。本研究では、中性子ビームを単細胞緑藻クラミドモナス細胞に当ててその小角散乱を測定し,ステート1では整然としていたチラコイド膜の規則構造がステート2では崩れること,細胞の円偏光吸収スペクトルを調べ,光化学系IIの全体構造がステート遷移の前後でほぼ保存されること,そして分光学的測定により光化学系IIの集光能力が大きく低下する一方光化学系Iの集光能力はわずかしか増強されないことを明らかにした。さらに、ステート遷移を含む光合成光環境適応機構の不明な点を明らかにするため新たな変異株の単離を試みた。ニトロソグアニジンで処理したクラミドモナスの細胞をクロロフィル蛍光イメージング測定装置を用いて選抜した結果、ステート変異系統が1株、ステート固定株が2株が得られた。フォトバイオリアクターを用いて屋外型変動光環境を再現し,ステート遷移とNPQの鍵因子であるSTT7,LHCSR3の役割をそれぞれの欠損株を用いて調べた結果,定常光環境では野生株と比べ生育に差が見られなかったどちらの欠損株も、変動光環境では生育が阻害されることがわかった。高等植物におけるNPQエフェクターPSBSと異なり、藻類のNPQエフェクターであるLHCSRは強光誘導される因子である。これらの遺伝子の発現誘導を詳しく調べた結果、光合成のためのクロロフィルによる光の吸収が誘導すること、カルモジュリン-Ca系が関与することが明らかとなった。一方、LHCSR1遺伝子はいずれの阻害効果も殆ど見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
ステート遷移の非侵襲解析については、国際強力が功を奏し予想以上に研究が進み、従来の捉え方を一新する結果が得られた。一方、さらに詳細を調べるために行った変異株のスクリーニングにおいては、想定外の技術上の問題により、戦略を練り直す必要が生じた。そのため、計画の一部を次年度に繰り越さざるを得なかった。しかし、繰り越した部分は次年度に予定通り進んだため、その分の遅れは解消された。LHCSR遺伝子の発現制御解析に関しては、定評のある戦略を取り、予定通りに進行した。以上を押し並べれば、「おおむね順調に進展している」と評価することができる。
光合成光環境適応に関わる因子がある程度明らかになってきたため、今後はその機能を屋外変動光環境において解析を進めていく。また、非光化学散逸(NPQ)機能において特に重要な因子であるLHCSR3に関しては、その発現レポーター系を構築し、これを用いてLHCSR3発現誘導にかかる因子のスクリーニングを始め、その発現誘導解析を進展させていく。また、2つのLHCSR遺伝子、LHCSR1とLHCSR3の機能の違い、発現誘導様式の違いについても明らかにし、NPQ誘導の全貌に迫る。
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