研究課題
光受容は、光合成の閾値のはるか下の値から、光合成による二酸化炭素固定に必要な値を超える値までの何桁もの光強度にまたがる。過剰な光は、主要な光防御応答であるqEクエンチングによる熱散逸の亢進によって予防される過程である酸化的損傷や細胞死を引き起こす。今年度は、qEエフェクタータンパク質LHCSR3の調節にはフォトトロピンのLOVドメインを介した青色光受容、およびフォトトロピンのキナーゼドメインを介したLHCSR3の誘導、そしてLHCSR3を介した光化学系IIにおける光散逸が必要であることを示した。これにより、フォトトロピンがqEエフェクタータンパク質LHCSR3の発現を強光下で誘導することでqEを調節していることが明らかとなった。このことは、光感受およびその利用、そして光の散逸は協調した過程であり、緑藻クラミドモナスにおいては光受容、光合成、そして光防御が分子レベルで連関していることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
・光環境適応変異株の解析 ― 平成27年度までに取得した変異株の戻し交配系統を確立するとともに、これらの変異株ゲノム地図を元にした変異座マッピングを行い、原因遺伝子3つを特定した。・野外変動光環境における光合成機能解析 ― 野外藻類培養施設を模したePBR(環境条件型フォトバイオリアクター)を用いたクラミドモナス野生株および平成27年度までに得られたクラミドモナス変異株の表現型を解析した。具体的にはMonitoring-PAMを用い、光量、温度、Fm (Fm')、 Fo (F)、Y(II)、 ETR等の連続測定を行った。またqEクエンチング緩和過程に注目し、ゼアキサンチンの有無による影響を調べた。・強光シグナル伝達系の解析 ― Lhcsr3遺伝子のプロモーターは強光駆動型であり、強光照射後2時間ほどで発現され、以後LHCSR3は光化学系IIに結合しNPQを発動する。平成27年度はLhcsr3遺伝子の下流にルシフェラーゼ遺伝を挿入したレポーター系を構築した。平成28年度はさらにもう一つのLhcsr遺伝子であるLhcsr1遺伝子の下流にルシフェラーゼ遺伝を挿入したレポーター系を構築する。この2つのレポーター系に変異を誘発し、Lhcsr遺伝子発現に異常をきたした変異株20株を単離した。・phot,acry変異株の解析 ― 大型スペクトログラフによるNPQのアクションスペクトル解析から、LHCSR3の遺伝子発現には青色光受容体の関与が示唆されたため、フォトトロピン変異株、クリプトクロム変異株がLHCSR3の発現誘導に関与するのか、またNPQ誘導に関与するのかを解析したところ、フォトトロピンが関与することが明らかとなった。
・これまでに蓄積されたNPQ誘導にかかわる変異株のマッピングをすすめるとともに、変異の作用ポイントを突き止めるための詳しい解析(NPQ誘導、キサントフィルサイクル誘導、LHCSR遺伝子発現、タンパク質発現等)を推進し、NPQの分子メカニズムに迫る。・野外変動光環境の各局面において、上記分子メカニズムがいかに寄与しているか解明する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nature
巻: 537 ページ: 563-566
10.1038/nature19358
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.
巻: 113 ページ: 5299-5304
10.1073/pnas.1525538113