研究課題/領域番号 |
26251036
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
蟻川 謙太郎 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20167232)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 昆虫 / 色覚 / 視葉板 / コネクトーム / 波長対比性 |
研究実績の概要 |
昆虫における色覚情報処理の初期過程とその進化を解明するため、視覚第一次中枢(視葉板)に的を絞り、(1)ナミアゲハ視葉板カートリッジのコネクトーム解析、(2)視細胞と視覚二次ニューロンの波長対比性反応の解析を行った。 (1)アゲハ視葉板のコネクトーム解析:前年度から解析を続けているアゲハ2個体のうち1個体について、3タイプの個眼それぞれに由来する合計5つのカートリッジについて、視細胞と二次ニューロン(LMC)の形態を3次元再構築で明らかにした。アゲハに近縁のメスアカモンキアゲハでは、古典的なゴルジ法により、4タイプのLMCが存在することは報告されていたが、個々のカートリッジに含まれるLMCの数と種類は明らかになっていなかった。本研究で初めて、いずれのカートリッジにもLMCは4つずつ含まれ、ひとつのカートリッジに含まれる4つのLMCはそれぞれ形態の違う4タイプであることがわかった。4タイプは、中央シャフトの太さおよびシャフトから伸びる側枝の密度と長さによって区別できた。ただし、アゲハとメスアカモンキアゲハではLMCの形態に違いがあった。これは視覚機能の種間差に関係しているものと思われる。 (2)波長対比性反応の解析:アゲハ視覚系に発現するヒスタミン駆動性Cl-チャネル候補分子PxHCLAとPxHCLBを培養細胞に発現させ、ホールセルパッチ法で生理学的特性を調べた。本来の伝達物質であるヒスタミンの他、アゲハ視葉板で存在が確認されている他の伝達物質候補(GABA、Dグルタミン酸、Lグルタミン酸、セロトニン、チラミン)に対する反応性も調べた。GABAのみが、PxHCLAとPxHCLBにCl-電流が生じさせたが、他の物質は全く効果が無かった。またこれらのチャネルの分布を免疫電顕法で調べた結果、PxHCLBは視細胞間シナプスに存在する可能性が極めて高いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ショウジョウバエでは全くその機能が知られていなかったHCLBチャネルが、我々がとくに注目している視細胞間シナプスに存在することが新たに分かった。またこのチャネルはショウジョウバエと異なり、ヒスタミンとGABAの両方に反応することが、パッチクランプ法で明らかになった。さらに、並行して行っていた研究で、アゲハにもCRISPR-Cas9法が有効であることがわかった。いずれの結果も全く予期していなかったことで、研究の新しい展開が強く期待できる状況になった。
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今後の研究の推進方策 |
すでにSBF-SEMで得ている視葉板連続切片画像の解析を更に進め、3タイプの個眼をそれぞれ2個ずつ、合計6個のカートリッジについて視細胞とLMCの形態と結合を明らかにする。6個のカートリッジは、隣接するものをすでに選定済である。これによって、視細胞とLMCが伸ばす長い側枝によって、隣接するカートリッジ同志の結合も明らかにする。 視葉板にガラス微小電極を刺入し、視細胞の分光感度を軸索末端部で記録する。視細胞間結合にHCLBが発現していることから、シナプス近傍では波長対比性の生成していることが強く期待される。
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