研究課題/領域番号 |
26252001
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松岡 信 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (00270992)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 育種学 / 遺伝学 / 遺伝子 / 植物 |
研究実績の概要 |
本研究は、イネの穂構造の分子機構を明らかにすべく、穂構造決定に関与するQTL遺伝子単離の新手法確立と遺伝子間ネットワーク構築にある。穂構造は収量の多寡に関与する重要形質であり、従前様々な研究が行われており、最近はQTL遺伝子も単離・解析され始めた。しかしQTL遺伝子の単離・解明は多大な労力を要し穂構造構築に対する包括的理解にはほど遠い。本研究では、ハバタキとコシヒカリの交雑自殖系統群(BILs)を用いて、穂構造を規定する形質による形質QTL解析と、穂形成時の全遺伝子の発現QTL遺伝子を統合し、簡便に穂構造に関与するQTL関連遺伝子を抽出することを目的としている。さらに、平成27年度には、従前のQTL解析に加えて日本品種178系統を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)に付いても実験を開始した。 発現QTL解析については、既に7番染色体長腕に座乗する1次枝梗長伸長に関わるqPBL7の単離を試み、当該遺伝子がMADS18であることを確認した。さらに、qPBL7以外の事例として、1番染色体に座乗し上位枝梗長・2次枝梗数を制御するqUPL1・qLWN1、7番に座乗し下位枝梗の着粒数を制御するqLPA7、8番染色体に座乗し上位枝梗の密度を制御するqUPB8を標的にした解析を進めた。qLPA7・qUPB8は候補領域を狭め発現QTLから類推される有力候補について形質転換体で確認したが穂構造決定に関与すると言う信頼に足る結果は得られなかった。一方、qLWN1とqUPL1については、候補領域内に1つまたは2つの穂構造決定に関連すると予想された遺伝子が確認されこれら候補遺伝子について形質転換を用いて原因遺伝子であるかについて確認を進めている。 さらに、昨年度から実験を進めたGWAS解析を用いた日本イネの穂構造決定に関わるQTL遺伝子の単離と解析を進めて、新規穂構造決定遺伝子の単離に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハバタキの7番染色体長腕に座乗するアリルが1次枝梗長伸長助長するQTL qPBL7について、同領域内に存在する発現QTLを探索しそれを候補遺伝子とすることで迅速にQTL原因遺伝子の単離に成功し、qPBL7の原因遺伝子がMADS18であると結論した。さらに、qPBL7以外の穂構造関連QTLについても、「今後の研究の推進方針」に述べるような取り組みを3つの異なる領域のQTLについて解析を進め、候補遺伝子を迅速に絞り込むことに成功したが、それら候補は形質転換実験では穂構造関連遺伝子であることを決定づけることはできなかった。現在、染色体1番に座乗し下位1次枝梗に形成される2次枝梗数の増加させるqLWN1と1次枝梗長を増加させるqUPL1について実験を進めており、これらについては平成27年シーズンの実験では、候補遺伝子がQTLの原因であることを指示する結果が得られている。さらに、27年度から開始したGWAS解析を用いたイネの穂構造決定因子の探索については非常に順調に展開し、11番染色体に座乗し日本のイネ集団に於いて穂長決定に最も大きく貢献するQTLが転写因子OsGATA28であることを突きとめた。さらに興味深いことに、本遺伝子は穂長だけでなく同時に出穂期や草丈の決定にも関与することが確認され、日本のイネ品種の草型決定に非常に大きな影響を与えている遺伝子である可能性が示唆された。この結果は、従前からのQTL解析に加えてGWASを用いたアプローチがQTLに関与する遺伝子の単離・同定に非常に貢献できることを示している。
|
今後の研究の推進方策 |
染色体1番に座乗するqLWN1とqUPL1について、今年度も引き続き形質転換実験を行い、これらの候補遺伝子が実際に穂構造を決定するかの確証を得る。さらに、昨年から開始したGWAS解析については、前年に用いた集団を用いて他の農業形質についても解析を進め、本研究の目的である「多大な労力を要するQTL遺伝子の単離・解明」について本手法を用いれば簡便・迅速にこれが可能である検証を行う。
|