本研究は、イネの穂における穂構造の分子機構を明らかにすべく、穂構造決定QTLに関わる遺伝子単離の新手法確立と遺伝子間ネットワーク構築を目的とした。穂構造は収量に直接関係する重要形質であり、近年では本形質に関わるQTL(遺伝子)も単離・解析され始めている。しかし現状でのQTL遺伝子の単離・解明は多大な労力を要する一方、単独の遺伝子の解析だけでは、穂構造構築に対する包括的理解にはほど遠い。この状況に鑑み、本研究においては多収インド型品種ハバタキとコシヒカリのBILsを用いて、穂構造を規定するQTLについて、従前からの形質ベースによる解析に加えて、穂形成時の全遺伝子の発現QTL遺伝子情報を加えることにより、穂構造に関与する遺伝子群を網羅的に抽出し、穂形成の遺伝子ネットワークを構築することを目的とした。さらに平成27年度以降は、最近急速に進歩したQTL解析の新手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)についても、日本品種178系統を用いて上記目的に対してどの程度有効かを評価した。 平成28年度は、コシヒカリとハバタキBIL集団を用いたeQTLと穂構造の形質調査により、イネ穂の構造を制御する複数のQTLについて詳細に解析を行い、そのいくつかについては責任遺伝子を特定した。またこれらハバタキの穂構造関連QTLの効果について、その効果が特に大きかった1番、6番、8番の座乗する各QTLの機能的相互関係を検討するために、各QTLを単独・2個・3個導入したNILを作製し、各NIL個体についてその穂構造を計測した。これらのデータに基づき統計学的手法を用いた解析を行い各QTLの特徴を明らかにした。さらに27年度より開始したGWAを用いた解析については短期間に非常に大きい成果を生むことが確認され、これまで見出されなかった新規QTLが複数発見された。
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