研究課題/領域番号 |
26252009
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
小崎 隆 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (00144345)
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研究分担者 |
矢内 純太 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (00273491)
塚田 祥文 福島大学, 環境放射能研究所, 教授 (50715498)
山口 紀子 国立研究開発法人農業環境技術研究所, 土壌環境研究領域, 主任研究員 (80345090)
和穎 朗太 国立研究開発法人農業環境技術研究所, 物質循環研究領域, 主任研究員 (80456748)
中尾 淳 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80624064)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性セシウム捕捉ポテンシャル / 風化黒雲母 / 粘土鉱物学 / 酸素同位体比分析 / 風成塵由来雲母 |
研究実績の概要 |
・ 土壌生成プロセスの進行と放射性Cs固定能の関係解明 1)化学風化:平成26、27年に埋設したCs固定黒雲母試料のうち、埋設から2年(京都×1地点、福島×2地点、マレーシア×5地点)または1年(アメリカ×7地点)経過後のものを回収し、雲母の風化状態およびCsの残存量について調べた。X線回折分析および全元素分析の結果、熱帯の強風化環境では雲母の層膨潤と層間のカリウムの損失が確認された。一方で層間のセシウムの損失はわずかであったことから、自然風化の過程での残留性の高さが明らかになった。さらに、層間に残留したCsを対象に放射光分析(EXAFS)を行った結果、一部のCsが水和状態に遷移している可能性が示唆された。H29年度は本年度回収した雲母を用いて、セシウムの連続抽出および放射光分析を行い、層間に残留するCsの化学状態の更なる解析を進める予定である。 2)腐植の蓄積:母材に雲母を含まない超塩基性岩(蛇紋岩)が分布する地帯の森林土壌を対象に、土壌からの腐植の除去に伴うCs固定能の変化を調べたところ、H27年度に分析した酸性岩(雲母を含む)地帯の森林土壌と同様に、表層付近では腐植による鉱物表面被覆がCs吸着抑制効果を示すことを実証した。 ・ 放射性 Cs の土壌‐植物間移行係数(TF)の測定 平成 26 、27年度に採取した表層土壌17点を用いて安定 Cs の土壌‐植物間移行試験(コールド試験)を実施した。土壌には安定 Cs を人工添加し、添加直後と添加から200日経過したものの 2 処理区を設けた。この土壌を培地とした根箱においてイタリアンライグラスを 1 週間培養した後、収穫した地上部に含まれる Cs 濃度を ICP-MS を用いて測定し、移行係数の算出を行った。その結果、交換性Cs濃度と交換性K濃度を説明変数とすることで、TFの変動の約8割が説明できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進行している。詳細は以下のとおりである。 ・土壌生成プロセスの進行と放射性Cs固定能の関係解明:1)化学風化プロセス:Cs固定した黒雲母を日本(京都・福島)、マレーシア、アメリカ合衆国西海岸、アメリカ合衆国東海岸の計13地点に埋設し、全地点から計画通り埋設試料を回収することができた。この回収した試料に対して、X線回折分析やSEM-EDX分析を行い、雲母の風化状態を比較するための実験条件の検討が十分になされ、成果も徐々に得られつつある。また、雲母に残留するCs濃度次第ではEXAFS振動解析の実施が困難であったが、層間のKに対してCsの残留性が高かったことから、無事分析を進めることができた。一方で、放射光施設ビームラインのマシンタイムを確保することが難しく、予定よりも分析数を稼げなかったという問題は残った。2)腐植の蓄積:昨年度と同様の手法を用いることで、幅広い種類の土壌において腐植の蓄積が土壌への放射性セシウムの吸着を大きく阻害することを確かめることができた。
・ 放射性 Cs の土壌‐植物間移行係数(TF)の測定:H26、27年度に採取した全球的な土壌試料群を対象にした、セシウムの土壌―作物間移行試験を予定通り実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、H28年度までに回収されたCs固定黒雲母を用いて、雲母の風化状況とCsの化学状態の関係について詳細に分析を進めるとともに、風化の進行程度に地域間差が生じた原因を、各地域の気象条件や土壌溶液のイオン組成等から明らかにしていく予定である。また、Csの土壌‐植物間移行係数に対する雲母の影響をより明確に示す目的で、雲母の量や風化程度を変えた模擬土壌を用いた栽培試験を実施する予定である。今年度は本課題の最終年度であるため、これまで得られた土壌中での基礎プロセスとセシウム吸着の関係に関する知見を総括し、新しい概念モデルおよび統計モデルの構築を目指す。一方で、これまで得られた知見に基づいた成果報告を積極的に実施する予定である。その一環として、7月にスイスで開催される国際学会(ICOBTE2017)ではシンポジウムを主催するとともに、このシンポジウムにおいて4題の発表を行う。論文発表も積極的に行う予定である。
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